第650話 「王の病室 2」を読む男 3
(前回からの続き)
ここがリアル!:その8 「患者さんにとっては弱い毒で、癌細胞にとっては猛毒なんです」という赤城研修医の言葉
抗癌剤治療を
西洋医学を攻撃する医療詐欺師たちにとって「抗癌剤は毒だ」という批判は決まり文句と化している。
確かに抗癌剤は毒ではあるが、赤城の言うとおり患者にとっては弱毒で、癌細胞にとっては猛毒だ。
弱毒と猛毒の差を利用して「肉を切らせて骨を断つ」のが抗癌剤治療で、厳密なモニターのもとに決められたプロトコールで行われる。
万一、想定外の副作用が出た場合には直ちに治療が中止されたり変更されたりするので、医療詐欺師たちの非難は当たらない。
とはいえ、医師の方も忙しいのが現実だ。
もし「抗癌剤治療は嫌だ」という患者がいたら「そんな事を言わずに一緒に頑張りましょうよ!」と説得する時間が惜しい。
なので、漫画の中の高野医師がやったみたいに「じゃあ抗癌剤は抜きで」と省エネで済ます事もあるのだろうと思う。
まるで寿司の「サビ抜きで」みたいな感覚だけど。
ここがリアル!:その9 「よし打ち返した」という前園医師の言葉
前園医師は当直の時に「引かない」という評判だが、実は「打ち返している」だけだった。
ここでいう「引く」「引かない」というのは当直の時に救急患者を引いてしまうか否かを言う。
当然の事ながら次から次へと救急症例を引いてしまって
いやいや最悪といっては失礼か。
患者や救急隊にとっては有難い存在だ。
でも一緒に当直をする研修医にとってはたまったものではない。
どう考えても、昼間に1日中働いて、夜は夜で寝ずに救急対応をして、翌日にも1日分の仕事が待っているってのは狂気の沙汰だ。
働き方改革の前は、そんな研修がまかり通っていた。
今で言うブラック企業ってやつだ。
でも、周囲が皆そんな感じで働いていたら、自分が狂気の中にいる自覚がなくなってしまうのだけど。
話を戻そう。
荒れる当直が多い中、内視鏡センター医長の
しかし何のことはない。
救急要請を片っ端から理由をつけて断っていただけだ。
で、「断った」ことを彼は「打ち返した」と表現しているわけ。
実際、理由をつけて断る医師は実在する。
というか、誰でもそういう状況になってしまう事がある、という方が正しい。
体力も気力も充実している時なら「救急? どこからでもかかってきなさい!」と強気に出ることができる。
でも、全く眠ることのできなかった当直の明け方なんかはもう自分自身が救急患者になったみたいなもんだ。
「もうこれ以上は根性が続かん」と思いながら、適当な理由を並べて救急を断った経験がオレにもある。
だから前園を非難する気にはなれない。
漫画の中では前園が
9割が良性
画像診断をするまでもなく身体診察で決着がつくから、
万一、明らかな神経欠損症状があったら神経内科医か脳外科医を呼び出して患者を渡してしまえば終わりだ。
ただし、この病院に神経内科医や脳外科医などの
それが面倒といえば面倒かもしれない。
数ヵ所に断られたら、それだけで1時間くらいは簡単に
そこまで考えて応需しなかったのか、前園。
お
ここがリアル!:その10 「俺はな……ちょっと人より内視鏡が得意なだけのポンコツ内科医だ」という前園医師の言葉
前園が自分の力量を把握している所が凄い。
だから救急要請に応需しないんだ、というのも理に
以下は前園の魂の叫びだ。
「一生懸命やっても自分の分野でやっとこさの俺みたいな奴もいるんだって!!」
「世の中、救急車を断って叩かれる話は山ほどあるけどさぁ」
「こっちだって好きで断ってるんじゃないんだよ。
「診れもしねーくせに取ったらそれは罪なんだよ!!」
その通りだ、前園。
キミの気持ちはよーく分るよ!
最悪なのは
実際、オレも何度か耳にしたことがある。
それだけでなく、裁判になって何千万円もの損害賠償請求をされてしまう、というオマケつきだ。
そう考えると、誰も危ない橋なんか渡りたくなくなるよな。
ここがリアル!:その11 「俺はこれから、この人を殺すかもしれないんだな」という赤城研修医の
赤城がうっかり「
すぐに適切な処置をすれば助かるが、手間取ったら患者は死ぬ。
さあどうする、赤城!
ということで第2巻はここで終わった。
次巻の予告では、この喘息の女性患者がステロイド治療を拒否しているようだ。
実際のところ、独自の思い込みで特定の治療を拒否する患者は少なくない。
これも「あるある」だけど、果たしてどんな結末を迎えるのだろうか。
第3巻は来年の3月に出るそうだけど、またオレなりのコメントをしたい。
(「『王の病室 2』を読む男」シリーズ 完)
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