第316話 宇宙に行こうとする男

 何が驚いたって、50歳過ぎて宇宙飛行士になろうって男がいたことだ。

 やけに熱心に英会話の勉強をしている同僚がいたので、1度、尋ねてみた。


「先生はなんでそんなに熱心に英語の勉強を?」


 今さら留学でもなさそうだし。

 ひょっとして美女講師につられて、とか。


「宇宙飛行士になろうと思いまして」

「えっ、宇宙を飛行しようってわけですか?」


 我ながら何とも間抜けな質問をしてしまった。


「ええ、こないだ宇宙航空研究開発機構J A X Aの試験を受けまして」

「あの JAXAジャクサ の試験を……受けたんですか!」

「落ちましたけど」


 いやいやいや。

 宇宙飛行士になるには体力も頭脳も必要なはず。

 英語だって流暢でなかったら大変だ。

 地上との交信でモタモタしていたら、あっという間に船は数千キロの彼方。


「だったら英語がしゃべれないと話になりませんね」

「英語だけじゃなくてロシア語もできた方がいいらしいんです」

「ロ、ロシア語まで!」


 というわけで英語勉強の秘訣を聞いてみた。

 かくいうオレもこれまで試して失敗した英語勉強法の数では誰にも負けない。


「たとえばリスニングですが、聞き流しは駄目ですね」

「やっぱり」

「今の学校に行き始めて思い知らされました。だからシャドーイングをしています」


 シャドーイングとは耳で英語を聴きながら、自分も追いかけて声に出すというもの。

 英語勉強の王道だと言われている。


「結局しゃべれない事柄は聴き取れないですから」

「なるほど」


 改めて感心した。

 シャドーイングを実行している人がホントにいるんだ。


 ちなみにオレの考えるシャドーイングの効能は2つある。


 リスニングではちゃんと聴き取れているかを確認するには書き取るのが1番だ。

 どこが出来て、どこが出来ていないか、一目瞭然。

 でも時間がかかる。

 で、書き取るかわりに口でしゃべってみる。

 これでも出来ていないところはかなり良く分かる。


 もう1つのシャドーイングの効能。


 それは、聴き取りってのは歌みたいなもんだってこと。

 歌いたい曲があったら、まずは歌を聴きながら口ずさむのが普通の人だ。

 だからシャドーイングなんかもカラオケ気分でやればいいのかもしれない。


 そんなわけで、オレもちょっとシャドーイングを試している。


 とは言っても JAXAジャクサ 受験ってのは無いな。

 オレなんか下手したら体力試験の最中に死ぬかもしれん。


 英検だったらスピーキング試験で恥をかくことはあっても死ぬことはないはず。

 ま、死ぬほど恥ずかしい目にあうかもしれないけど。


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