第998話 千本ノックを要求する女 1
妻は
非常に特殊な分野だ。
が、その重要性から各大学でも正式部門への昇格が相次いでいる。
ある日の事。
たまたま大学の脳神経外科教授の娘さんがオレの勤務する病院に入院した。
ちょっとした手術を受けるためだ。
もちろんオレは病室に飛んで行った。
そこで教授から驚くべき話を聞かされる。
「先生の奥さんがやっている部門に教授職をつけようという事になってね」
「本当ですか!」
「奥さん、教授選に出馬してくれるかな?」
「いやあ、その話は初耳なんで」
家に帰ってから事の
「確かにそういう話が出ているのよ。教授選に出るかどうか迷っているんだけど」
「出ろよ。出るしかないだろ」
「そうね。自分の上に誰かが来るというのもちょっと抵抗があるし」
というやり取りの後、妻は教授選の準備を始めた。
ところが思わぬ問題が浮上した。
大学の内規では教授選への出馬条件は旧帝国大学の准教授以上、もしくはその他の大学の教授となっている。
そもそもが特殊な分野だけに、そんな条件に
皆無といってもいいかもしれない。
誰が出ても当て馬になってしまうのは目に見えている。
仕方なく条件を
それでも候補者が出ない。
ということは候補者1人。
だからといって不戦勝ではない。
教授会で20分間のプレゼンテーションを行い、過半数以上の賛成票を獲得する必要がある。
医学部医学科の教授は全部で59人なので、そのうちの30人から承認をもらわなくてはならない。
欠席者の票は自動的に非承認となってしまう。
だから実際は過半数より厳しい。
オレは取れそうな票を数えてみた。
妻の医学部同級生のうち5人が現役教授だ。
また学生時代に活動していた軽音楽部からも5人が教授になった。
オレの医学部同級生もまた5人が教授になっている。
そして卓球部からも5人が教授になった。
残り39票のうち10票とれば当選だ。
が、欠席者の分は有効票にはならない。
国際学会の出席などで毎回10人ほどが欠席するらしい。
だから実際には29票から10票を取らなくてはならない。
臨床系の教授たちには
しかし日々、試験管を振っている基礎系の教授に臨床の話が通じるだろうか?
たしかに基礎系の教授たちに理解してもらえるかは不安だ。
が、だからといって準備を
プレゼンの練習をする必要がある。
日頃はお弟子さんたちに千本ノックを食らわしている妻が、オレに千本ノックを浴びせてくれと頼んできた。
もちろんオレに異論はない。
(次回に続く)
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