第31話 10分ルールを守る女

その女性患者はアメリカ人だった。

40歳には届いていないと思うが、大変な肥満だ。


採血のときについでにHbA1Cヘモグロビンエーワンシーも測ったら10を超えていた。

正常は6未満だ。


聞けば、母親も姉も糖尿病だという。

他にも失明したり腎不全になったりした血縁者がいるそうだ。


薬ではなく、まずは食事と運動で頑張りたいのだとか。


「分かりました。食事については10分ルールってのがあります」

「OK」

「食事の後にちょっと足りないなと思うことってありますよね」

「ええ」

「その時に10分だけ待つのです」


これはオレが考えたオリジナルだ。


もう少し食べたい、と思ってもちょっとだけ待つと満腹中枢が働き始める。

10分経つと不思議なことに食事に興味がなくなってしまう。


「できそうですか?」

「やってみるわ」


アメリカ人はxxルールってのが好きだ。

継続できるかどうかは別として、まずは試してみよう。


「次にジュースとかコーラとかマックシェイクですけど」

「全部好きなんだけど、やめなくちゃいけないの?」


彼女の表情におびえが走る。


「なるべく避けて、水とか無糖コーヒーとかがいいですね」

「そっちは難しそう」

「甘いものを飲んでもいいのですけど、その時には良く味わいましょう」


要するに無意識に飲むなってこと。

水代わりにコーラを飲む習慣なんかは最悪だ。


「マクドナルドでのドリンクはSサイズを選ぶといいですね」

「それだったらできそう」


彼女はホッとした表情になった。


「まずはその2つから始めて2ヶ月後のHbA1Cを確認しましょう」


生活習慣の改善というのは知識もさることながら、どう実行するかが大切だ。

できれば意志の強さに頼らない方法がいい。


怠け者を働き者にするより、誰でも実行可能な方法を考える方が現実的だとオレは思っている。


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