第515話 風俗に行った男 3
風俗に行った若者が半年ぶりに帰ってきた。
1と2はそれぞれ第318話と第319話をみてほしい。
これまでの話を大雑把に紹介すると、若者の頭痛や吐き気は髄液漏出症と診断し、汗をかいたりシャワーを冷水にしたりするというのは甲状腺機能亢進症とオレは診断した。
この青年が再び総合診療科の外来に現れた。
数日前に3回嘔吐したので消化器内科クリニックを受診したのだとか。
「たぶん逆流性食道炎だろう」ということで薬をもらった。
ただ、
「どうもお久しぶりです」
「おお、風俗青年……だったかな」
「やめて下さいよ。あれ以来、行ってません」
「そういや、彼女さんとは続いているわけ?」
「ええ、ずっと一緒に住んでいます」
今回の訴えは多彩だった。
座って悪化し寝ると改善する頭痛、いわゆる髄液漏出症はすっかり軽快していた。
が、今は眩暈と吐き気、ふらつきに悩まされている。
さらに、左の脇腹と胸が痛くなることが時々ある。
そして何と言っても後頭部の拍動感、寝ていても体全体が揺れているような気がするそうだ。
20歳そこそこにしては症状が多彩だ。
まるで高齢者の愚痴を聞かされているような気がする。
ちなみに甲状腺機能亢進症の疑いは晴れていた。
内分泌内科で散々調べて、正常範囲だということになったのだ。
じゃあ何だこれは?
「頭の血管が心配なんでMRIを撮って欲しいんですけど」
「いいよ、そのくらい」
この年齢で何らかの病気がある可能性は低い。
が、オレは脳腫瘍、脳動脈瘤、
「それに、癌とかが無いかも心配になってきまして」
「順番に片付けようぜ」
もし真剣に癌の有無を探そうと思ったらPETになる。
10数万円かけて自費で検査してもらうしかない。
それだけしても結果はまず陰性だろう。
努力すべき方向性としては正しくない。
この若者の言うことを聞いているうちに「もしかして」という考えが頭をよぎる。
「ひょっとしてコロナにかからなかったか?」
「去年の暮れに40度の熱が出たんで調べたんですけど陰性でした」
去年の暮れといえば第8波の真っ最中だ。
偽陰性、つまり検査では陰性に出たけど実はコロナに感染していた、と考えれば全ての
そもそもコロナの検査の感度はせいぜい7割なので、およそ3分の1の感染者を見落としてしまう。
だから検査に引っ掛からずに感染していた若者がいても全く不思議ではない。
「あの熱が出てから調子が悪いんですよ。体調のいい日は何でもできるんですけど、体調が悪い日は何もできなくて」
以前のコロナ後遺症は嗅覚障害、味覚障害、脱毛が多かった。
でも、最近のコロナ後遺症は息切れ、
発熱以来体調が悪くて色々な訴えがある、これはコロナ後遺症そのものじゃないか。
もう、そう扱うのが最も
「検査は陰性だけどコロナ後遺症だな、これは」
「ええっ! なにか薬とかあるんですか?」
「いや、はっきりこれが効くという薬は無いから無理をせず休んでいるのが1番だな」
若者はもともと自宅でネットを使ってやる仕事をしているので、好きな時に横になれるそうだ。
採血での甲状腺ホルモン確認と頭部MRI撮影の予約を行って帰ってもらった。
結果は再来週に外来で説明することになる。
来週の外来受診を提案したら、その日はマカオに行っているんだと。
おいおい、無理するなといったじゃないか。
きっと安静という言葉の意味がオレと若者とで違っているんだろうな。
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