第62話 固く心に誓った男

前にも述べたが勤務医にとって病気は3つに分類される。


まずは自分が興味のある疾患。

これは興味津々で、是非診察し治療したい疾患だ。


次に余裕があれば診てもいい疾患。

是非とは言わないが、時間と体力があれば対応しようか、というもの。


最後に余裕があっても診たくない疾患。

専門外だとか、面倒だとか、色々な理由がある。



一方、クリニックの医師はどうだろうか?

オレは勤務医なので開業医の考え方については推測になってしまう。

が、現在の診療報酬制度では薄利多売にならざるを得ない。

なので時間のかかる疾患は御免だ、ということになる。

多分、1人10分くらいの見当で診察するのだろう。


かくして誰にも興味を持たれない、しかも時間のかかる患者は皆が敬遠する。


だから、そのような患者は話を聴いてくれる医者に飢えている。

「こいつ話を聴いてくれる!」と思われたら大変だ。

外来でありったけの話を浴びせられる。


1回の診察が30分で済んだら早い方かもしれない。


この長話ながばなしは後ろに待っている患者に確実に影響する。

1時間待たされた! 2時間待たされた!

そんなブーイングに耐えなくてはならない。


オレは言いたい。

だからオレが待たせたんじゃないんだって。

話の長い患者がいたからだ。


オレがコーヒーでも飲んで待たせていたのなら謝る。

でも実際はトイレに行くのも我慢して外来診療をしているのだ。

誰も理解してくれないけど、それが現実だ。



つい最近まで、そう言って愚痴をこぼしていた。


ところが!

実はオレ自身が長話ながばなしの老人としていたのだ。


というのも先日、女子医学生の病院見学があった。

案内係のレジデントに何か有難い話でもしてやって下さい、と言われたのだ。

オレは喜んで外来のソファに座って医療についての持論をぶった。


知らない間に時間が経っていたようだ。

しばらくしてくだんのレジデントが覗きに来た。


気がついたら1時間半が経過している。

結局、彼が女子医学生を救出したみたいな流れになっちまった。


クソッ、なんてこったい!

まるでオレが悪者みたいじゃないか。


オレは固く心に誓った。

今後、絶対に話の長い年寄りにはなるまい、と。



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