第100話 法律を守らない男

前回は道路交通法を守らずに死んでしまった中学生の話をした。

信号無視のバイクで乗用車と衝突したのだ。


その中学生は校則も法律も無視していたのかもしれない。

とはいえ、所詮しょせんは人の作ったルールだ。

違反してもバレさえしなければ罰をくらうわけではない。


でも、神様の作ったルールの方は守らないと大変なことになる。

オレがいう神様のルールってのは数学や物理の法則だ。


赤信号を無視したら一定の確率で他の車と衝突する。

つまり数学の法則だ。


またノーヘルのバイクで乗用車と衝突したら大怪我おおけがをする。

いわゆる高エネルギー外傷で、命を落としかねない。

こっちの方は物理の法則だ。


だからオレは言いたい。

数学や物理の法則を無視するな。

そのためにも、まずは校則や法律を守れ。



が、問題はオレたち医師の方にもある。

神様の作ったルールを優先しすぎる事だ。

つい法律の方を軽視してしまう。


たとえば労働基準法。

第32条に法定労働時間が明記されている。


「使用者は労働者に休憩時間を除き、1週間について40時間を超えて労働させてはならない」


しかし……


「救急だ、緊急オペだ」と、気がつけばオレたちは週80時間も働いている。

昼間働き、夜に当直を行い、また翌日も働く。


僻地へきちなんだから、医師たるもの休日をとるべからず」といったセリフもよく耳にする。


もう無茶苦茶だ。



そもそも無医村が存在するってのは行政の責任じゃないのか。

それを個々の医師の頑張りで乗り切ろうってのは本末転倒もはなはだしい。


だいたい人間の体は週80時間、昼も夜も働くようにはできていない。


無理すると何処かにひずみが出る。

診療中に重大なミスをするとか、自分の寿命を縮めてしまうとか。

おそらく両方だろう。


ん?

気づかないうちに法律だけでなく、神様の作った生物のルールも破っているぞ。



そんな中で進められている医師の働き方改革。

簡単に言えば医師の長時間労働を禁止しようって話だ。


あちこちから反対されているが、オレは賛成する。

法律も神様のルールも、両方とも尊重すべきだ。

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