第694話 秘策を練る女
某月某日、診療局長と看護部長、そしてオレを入れた3人が会議室に集合した。
目的はいかに夜間休日救急の
不応需というのは、救急隊からの搬入要請に対して断ることを言う。
決して感心した事ではないし、救急隊からの信用もなくしてしまう。
しかも1晩で10数件も断っていたら話にならない。
現状の問題点。
他院の取り組み。
思いつきの対策。
そういったものがランダムに提示される。
なんせ相手が女性2人だから、どうしても井戸端会議になってしまいがちだ。
参考までに、ウチの病院における夜間休日の救急外来、いわゆるERの体制はこうなっている。
研修医1年目と2年目がペアを組み三次救急以外に対応する。
三次救急は多発外傷とか来院
さすがに研修医では太刀打ちできないので、救急専門医が対応する。
で、三次以外の救急というと「熱が出ました」「腹が痛くて吐いています」「泥酔して意識不明です」「全身に蕁麻疹が出て息が苦しくなってきました」といった訴えになる。
こういった比較的軽症の救急患者でも入院が必要になる事もあるし、中にはERでいきなり心肺停止する人もいる。
だから油断大敵だ。
さすがに卒後数ヵ月の研修医と1年数ヵ月の研修医の組み合わせでは心許ない。
だからケツモチとして外来担当のレジデントを置いている。
レジデントは2年間の初期研修を終えて消化器内科だとか整形外科だとかを専攻する立場の医師だ。
だいたい卒後3年目から7年目くらいにあたる。
その間に試験を受けて各診療科の専門医を取得するのだ。
すでに一通りの初期研修を済ませて専門医を目指しているのだから、頼もしい存在……のはずだけど、必ずしもそうではない。
戦力として当てになるか否かは人による。
診療局長と看護部長が次々にERの問題点をあげていく。
「研修医に言わせたら全然ERに顔を見せない外来担当のレジデントがいるんだそうです」
「年末の急性アルコール中毒、断りすぎですね」
「特に評判が悪いレジデントは整形外科の〇〇先生と、外科の✕✕先生ですね」
「研修医が困って三次の救急医に相談しても『何でこんな症例を取ったんだ!』と怒られたりするそうです」
思わずオレは突っ込んだ。
「その救急医に『先生に相談しても無駄だってことですね』と言ったらどうでしょうか」
女性2人は思わず顔を見合わせる。
「先生、それは昭和のカエシです。本当に言ったりしたら火に油を注ぐみたいなものですよ!」
確かに喧嘩を売っているとしか取られないな。
「『何で取ったんだ、と言われてましても私には良く分かりません。どこが悪いのか教えてください』って言ったらどうですかね」
これだったら大丈夫だろう。
「それは平成のカエシですよ。『自分で考えろ』と言われたら終わりです」
こちらも不評だった。
いいセリフだと思ったんだけどな。
「じゃあ、令和のカエシはどうなっているんですか?」
「こっそり隠れて泣くとか、心を病んで休職するとか。残念ながら、それが研修医の現状です」
もう無茶苦茶だ。
でも、これで終わりではない。
「ERが4床しか無くてすぐに一杯になるからと言われたんで、隣に4床拡張したら目が届かなくて使えないって言われて」
「そんなもん、ただのエクスキューズでしょう」
「どうせ壁を取っ払ったって、別の言い訳を聞かされるだけだと思いますね」
一体どこから手をつけていいか分からない。
まるでゴミ屋敷の掃除に取り掛かったみたいなもんだ。
(次回に続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます