第426話 排尿について語る男

「悪いけどトイレの床にこぼしたおしっこ・・・・いておいてくれる?」


そう妻に言われた。

が、オレにも言い分はある。


「5回に4回は拭いているんだけど、後の1回を忘れてしまうんだよな」

「だいたい、1歩前に出たら済むことなんじゃないの?」

「いや、そんな単純なもんじゃない。もっとね、複雑怪奇なものなのよ、男のおしっこという奴は」


そしてオレは男のおしっこについて熱く語った。


「まず、一定の年齢を過ぎた男のおしっこは2つに分かれて飛ぶ」

「初めて聞いた!」

「おしっこの主流は前に飛ぶけど、ごく一部は先端から下にポタポタこぼれる」


妻は仰天していた。


「だから主流と支流の両方を便器に収めようとすると大変なわけ」


世界中の男の共通の秘密だ。


実はオーストラリアの学会に行ったときには爪先下がりのトイレがあって驚いた。

これだと主流もポタポタもうまい具合に便器におさまる。

たまたま隣にいた某大学の教授なんか感動して写真を撮っていたくらいだ。


「じゃあ、小の方も腰かけてやったらいいじゃん、という説もあるかもしれん」


そうオレは先手を打った。


「その場合、男の膀胱の構造上、全て出し切ることができないわけよ。少し残った状態というのは体に良くないからな」

「それ、本当?」

「液体というのは機嫌良く流してこそのもんだ」


あやしい屁理屈へりくつに聞こえるかもしれない。


「もうちょっと言うと、男の尿道というのは30歳をすぎると途中にまりのようなものができるわけ」

「はあ?」

「全部出した、と思ってもこの溜まりの部分に残ってしまうので、後でチョロッと漏れたりね」

「……」

「色々と悩ましいものなんよ」


もう妻はあきれかえっている。


「でもね、頭の中はいつまでも二十歳の青年だからね。それでおしっこをすると粗相そそうをしてしまったりするわけ。困ったもんだ」


排尿にしても排便にしても滅多に命にかかわらない。

だから医学的には軽視されがちだけど、実は大問題なのだろうとオレは思う。



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