第175話 食べてないアピールをする女

コロナ騒動で思った事がある。


それは、他人の体温くらい興味を持てないものはないってことだ。


医療従事者も案外よく口にする。


「ワクチンを打ったら39.5度出た」

「コロナにかかったら熱が40.2度出た」


一応は驚いたふりをするが、3秒後には忘れてしまうのが現実だ。


「私の平熱は35.5度なので、36.6度というのは発熱なんです!」


そういう患者もいる。

日本人だけかと思ったら、世界中の医療機関で聞かされるそうだ。


そもそも人間ってのは熱があるから体温計を引っ張り出すのだ。

熱もないのに測ろうってのは平熱マニアかよほどの暇人ひまじんに違いない。

もう少し有意義な事に人生を使うべきだろう。


とはいえ、最近は非接触性体温計というのが建物の入口にあったりする。

だから平熱を知っていると主張する患者もいる。

夏高く、冬低く出る数字を持ち出されても何だかなあ。



興味を持てないのは、食べてないアピールにもいえる。


「食欲がありません」

「3日間、何も食べてないんです」


外来診察室で強調されても困る。

大声で訴える時点で何の説得力もない。


そういや、オレはハンガーストライキってのが理解できない。

母親に叱られて「御飯なんからない!」とねている子供と何が違っているのか。

食べたければ食べたらいいし、要らなかったら食べなければいい。


本当に問題なのは精神的な障害で食事を拒否する人たちだ。

骨と皮だけのゾンビみたいになって目をギョロギョロさせている。

彼女らは病院食をこっそりゴミ箱に捨てたりするので油断がならない。



食べてないアピールの他に寝てないアピールってのもある。


「毎日2時間しか眠れません」

「3日間、一睡もしていません」


そういう人が入院したら、実際にはよく眠っていたりする。


「〇〇さん、全然眠れないって言ってたけど」

「ウソだ。さっき訪室したらイビキかいて寝てたよ」


ナースステーションではそんな会話ばかりだ。


オレは研修医時代、「人生の目的は眠ることだ」とまで思った。

午前2時にシラフで帰宅して、午前4時に病院に呼び出される。

そんな生活を続けていたら、最後に残るのは睡眠欲だけになってしまう。


金もメシも何もいらない。

美女なんかどうでもいい。

欲しいのは寝る場所だけだ。


ということであらゆるモノをベッドにした。

ソファはもちろん、診察台とか並べた椅子とか。


少ないながらも床に寝る研修医もいた。

床なら下に落ちることもないから安全だ。


そういう生活を送ってきたせいか、今でも不眠とは無縁だ。


「2時間しか眠れません」

「きっと体が2時間以上の睡眠を必要としていないのでしょう」

「3日間、全く寝ていません」

「心配いりません。もうすぐ永遠に眠る日がやってきますから」


本当に口にするわけにはいかないから、カクヨムだけで言っておこう。

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