第772話 あれこれ考える男 2
(前回からの続き)
くも膜下出血が起こったときの症状は、突然の激しい頭痛だ。
これに嘔吐や意識障害が加わることもある。
手術を含めたベストの治療を行ったとしても3分の1が死亡、3分の1が寝たきり・車椅子になってしまう。
運よく社会復帰できるのは僅か3分の1に過ぎない。
くも膜下出血になった有名人といえば、巨人軍の木村拓也コーチ、小室哲哉の元妻のKEIKO、ソニーの元社長の大賀典雄などがいる。
木村拓也コーチは死亡、KEIKOは生存したが高次脳機能障害を患い、大賀典雄は社会復帰した。
くも膜下出血を発症してから治療しても極めて予後が悪いので、未破裂の段階で予防治療をすれば良かろう、ということになる。
治療というのは具体的には開頭によるクリッピング術か血管内治療によるコイル閉塞術だ。
が、生身の脳に手術をする以上、一定のリスクは避けられない。
大雑把な数字としてよく使われるのは、重大な合併症の発生が5%、死亡が1%というところだ。
高齢患者の場合は生涯破裂率が低く、手術リスクが高いので、経過観察を勧める事が多い。
このあたりは患者個人の考え方にもよるので、90歳でも手術して欲しいという患者もいれば、死ぬより手術の方が怖いという若い患者もいる。
もちろん、医師の側としては説明を尽くした上で患者本人の意思を尊重して治療方針を決める。
このように脳外科外来で未破裂脳動脈瘤の説明を行う場合は型が決まっているのであまり頭を使う事はない。
頭を使うのは治療の段階になってからで、「開頭クリッピング術にすべきか血管内治療にすべきか」に始まり、クリッピングの場合は「どのアプローチを選択するか」「どの静脈の間から脳槽に入るか」「どの角度からどのクリップを使うか」などに心を砕かなくてはならない。
一方、難儀なのは総合診療科外来だ。
ここに紹介されてくるのは、ありとあらゆる難病・奇病だ。
いや、難病・奇病というよりも珍症状というのが正しい。
今朝、病院のオレのメールボックスに入っていたのは近くのクリニックからの診療情報提供書だ。
主訴は「入浴後の左側胸部痛」とある。
なんじゃ、そりゃ!
ヘルペスか?
中身を読むと、さらに意味不明だ。
70歳代の男性で、風呂から出ると左側胸部が痛くなるのだとか。
最初は自然に痛みが治っていたけど、だんだん治らなくなってきた。
だから、風呂には入らなくなったのだとか。
おいおいおい。
何だ、それは?
見当もつかない病歴じゃないか。
勘弁してくれよ!
(次回に続く)
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