第29話 医者にガミガミ言われる男

 目の前にはごつい体格の男性がいた。

 始まりの症状はありきたりだ。

 くびが悪いとか足がしびれるとか。


 とにかく自宅で血圧を測定して記録をつけるようオレは言った。

 40歳以上の患者には全員に言っている。


 見た目のごつさと違い、几帳面な人だった。

 自宅で測定した血圧をキチンとプリントしている。


 チラッと見ると160とか170とかいう数字が踊っていた。

 下の方も100越えが普通だ。


 こりゃ駄目だな。


 オレは厳しく言う方ではないが、それでも140/90を死守せよ、と言っている。

 つまり上の血圧が140を超えてはならない。

 そして下の血圧も90を超えてはならない。


 だから136/86ならOKだ。

 でも180/120はダメだ。

 このままでは10年で寿命を迎えてしまう。

 脳出血か、心筋梗塞か。


 血圧の怖いところは自覚症状がないことだ。

 だから数字がすべてだ。

 とにかく140と90を死守しなくてはならない。


「私は酒も飲まないしたばこも吸わないし」

「食事はどうしているんですか?」

「薄味なんですよ」

「じゃあ、既に清く正しい生活を送っているわけですね」


 生活習慣を見直すという段階ではないが、一応きいてみた。


「体質的なものかもしれませんね」

「そういや親父も祖父も脳出血で倒れました」


 あらら、やっぱりあるじゃん。


「いくら清く正しい生活をしていても血圧が高くなる人はいるんですよ」

「そうだったんですか!」

「逆にすさんだ生活をしていても動脈硬化が進まない人もね」

「それ、不公平ですね」


 すべからく人生は不公平にできている。


「かかりつけの先生はおられますか?」

「いやあ、風邪をひいたときにかかるくらいで」

「じゃあ、この近くの先生を紹介しましょう」

「ぜひお願いします」


 ということで、オレは知り合いの開業医を紹介した。

 昔、一緒に働いていた内科医だ。


 生活習慣病なんてものは1回の治療で治るものではない。

 こまめに通院して医者にガミガミ言われるのが1番だ。


 薬はキチンとのんでいるか。

 血圧は毎日測っているか。

 ちゃんと記録しているか。

 そういったたぐいの小言が大切だ。


 御免!

 オレ自身ができてない。


 医者の不養生とはよく言ったもんだ。



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