第269話 いい考えを思いついた男
そもそもの発端は皮膚科だった。
他院からの転院依頼を引き受けてしまったのだ。
軽く40度を超える熱が続き、患者は日に日に消耗していく。
で、
発熱の原因精査は皮膚科の領域ではない、そう言われればその通りだ。
だから総合診療科で色々調べてみた。
驚いた事に血中の
正常値がせいぜい500程度なので馬鹿上がりしているのは間違いない。
ところがこの患者は37,000!
こんな数値があるとすれば悪性リンパ腫に違いない。
が、悪性リンパ腫を専門とするはずの血液内科は受け取りを拒否した。
そこで診断をつけるために大腿部皮下腫瘤を整形外科が生検した。
しかし、単なる
仕方なく耳鼻科に頼んで後頚部にもあった皮下腫瘤を
そこにある巨大な腫瘤がリンパ腫ではないか、と思われたからだ
ところが血が止まらなくて難儀したらしい。
針生検で採ることのできる組織はごく
それで悪性リンパ腫と診断がつけばいいが、そうでなかったら次の一手が思いつかない。
完全に立ち往生だ。
オレは総合診療科のカンファレンスで担当研修医の
「もし針生検で診断がつかなかったら?」
「御家族はホスピスに行かせたいという希望が……」
「素人の言うことはどうでもいいから、先生の意見を聞かせてくれ」
「『
「いや、僕は……」
「知識がないとか経験がないとか、そんな
「……」
「先生は何をすべきだと思うのか、それを
周囲に
そういう事はしばしば起こる。
頼むから研修医のうちにそういう事態にぶつかる覚悟を持ってくれ。
「この前の針生検で耳鼻科は
「そうみたいです」
「組織をもっと大きく
「たぶんそうでしょうね」
針生検ですら出血にてこずったんだ。
皮膚を切開して組織を採るなんて正気の沙汰じゃない、そう言われるだろう。
「じゃあ、オレと先生とでやるか、生検を」
「やってもいいのでしょうか?」
「耳鼻科がやってくれなかったらオレたちでやるしかないじゃん」
「わ、分かりました」
そう言いながらも
「もし血が止まらなくて失血死したらどうする?」
「それ、まずいですよね」
「警察に連れていかれるかな、2人とも」
「僕もですか」
「まだ研修医ですから、とか言っても警察には通じないぞ」
「それ、あんまりじゃないですか」
「せっかく免許をとったのに1年
「悲しすぎます」
オレはもうウン十年やっているけど、宮負くんはまだ初心者だ。
医師になるまでの苦労が全て水の泡になってしまう。
「でも、診断をつけないと治療できないしな」
「それもそうですけど」
「しくじったら刑務所かも、というプレッシャーの中で手術するわけよ。手が震えるぞ」
「震えたくないです」
「いやいや、震えながらやるのがいいんじゃないか。他の職業ではなかなか経験できないからな」
オレは自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。
「でも、オレたちが生検をやるとなったら血液内科の人達は必ず
「そうなんですか?」
「新鮮な組織を採りにくるわけよ。
もう複雑怪奇な人間関係に
「だから、血液内科をうまく味方につけるためにも生検だよ、生検!」
「は、はい」
とはいえ、
だから、脳外科の誰かに応援を頼もうか。
彼らなら難しい事を考えずに参加してくれそうだし。
うん、
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