第270話 小説に登場してしまった女

「先生の書いたものを読んでいると面白いですね」

「おっ、ありがとう!」

はずれがないというか。私、あまり本を読まないんですけど」


そうめてくれたのは医師事務の女性。

オレが定期的に寄稿している記事を読んでくれている。


「実は来年、メジャーデビューするんだ」

「ホントですか、すごーい!」

「勝手に自分で決めているだけなんだけど」


狙った大賞にかすりもしないかも。

でも、ちょっとくらい夢を語らせてくれ。


「今はカクヨムってところでネット小説を書いているわけ」

「何ですか、カクヨムって?」

「スマホを持ってるかな。検索したら出てくるから」


彼女は持っていたスマホで「カクヨム」「診察室」で検索した。


「ペンネームで書いているんだ、毎日」

「これ、先生なんですか? 私、自分のまわりでそんな事している人、初めて見ました」


オレもそんな人にはリアルで会ったことないけど。


「何千、何万という小説が発表されているからさ、カクヨムでは」

「そんなに?」

「だから、その中に埋もれてしまうわけ」


まさしく埋没まいぼつしてしまう。


「それぞれの小説には星がつくんだけど、オレなんかまだ200とか、そんなもんだ」

「200って上の方?」

「いや、1万を超える小説もある。そうなったら神だな」

「やっぱり面白いんですか、そんな神小説かみしょうせつって」

「いや、星の数と面白さは必ずしも比例していない」


正直、決して負けていないとオレは思う。

「思う」というより「信じたい」というべきか。


その一方で、驚くほどよく出来た小説がひっそりと隠れていたりする。

豊富な語彙ごい、力強いストーリー、一貫した世界観。

どこをとってもプロのレベルだ。


そんな素晴らしい作品なのに、なんで星が少ないのか分からない。

きっとオレの物差しと世間の物差しがズレているのだろう。


まあ、カクヨムってのはまさに資本主義社会の縮図だといえる。


「よかったら読んでみて」

「ええ」

「コメントも書いてくれたらはげみになるから」


彼女は亭主にも父親にも勧めると言ってくれた。

皆、本を読むのが好きなんだそうだ。


「そうそう、小説の中にはキミにも登場してもらっているよ」

「ええーっ!! 絶対に読みます!」


具体的な読者の目を意識して書くってのもいいかもしれないな。


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