第727話 趣味の欲しい女

「私、子供の頃からアイドルに夢中になるとか、そういう趣味が無かったんですよ」


 そう言い出したのは診療看護師の幸村武美ゆきむら たけみさん。


「趣味ってのは勝手にいてくるもんでしょ」


 そうオレが言うと彼女は反論する。


「それが……全く湧いてこなかったんです」


 そもそも趣味ってのは作るものかね?

 締切の前日になって「イカン、イカーン!」と思いながらゲームに夢中になるとか、漫画を読んでしまうとか。

 そういった中毒状態になってしまうのが趣味じゃないかな。


 ある意味、恋愛みたいなもんだ。

 知らんけど……


「そんな込み入った趣味でなくても漫画を読むとかだったら?」

「そうですね、漫画は読みます。何かいいのがありますかね」


 漫画ならオレも読む。

 とはいえ、カクヨム作家としての勉強も兼ねているんだけど。


「あれはどうかな。昭和の二大漫画、『鉄腕アトム』と『巨人の星』。まさか平成生まれじゃないよな」

「ちゃんと昭和ですよ。『鉄腕アトム』はほとんど読んだのですけど『巨人の星』は読んだことないですね」

「ええっ! あれを読まずして昭和を語ることはできんぞ。キミの亭主なら読んでいるんじゃないかな」

「いやあ、読んでないと思いますよ。あの人、何も知りませんから」

「何も知らないって……仕事は何をしているわけ?」

「普通のサラリーマンですけどね」


 昭和生まれの普通のサラリーマンなら知っているだろう、「巨人の星」くらい。


「まだ読んでいないとすれば『巨人の星』は候補の1つとして……」

「令和の漫画で何かいいのがありますか?」

「1つあるとしたら『約束のネバーランド』かな」


「鬼滅の刃」も「進撃の巨人」も挫折したけど「やくネバ」は最後まで読んでしまった。


「どんなジャンルになるんですか」

「いわゆるダークファンタジーよ」


 絵は可愛いのにストーリーが怖い!

 優しい孤児院の「ママ」の元ですくすく育つ子供たちの話だ。

 当然の事ながら、優しく見えるのは表向きの顔。

 孤児院の見えない所では想像を絶する物語がくりひろげられていた。


「面白そうですね」

「ぜひ読んでみて」


 オレ自身がカクヨムで創作活動をしている事はついぞ打ち明けられなかった。

 そもそも幸村さん自身も登場人物の1人だから、どんなリアクションがくるか予想がつかないし。


 ちなみに今まさに読んでいる漫画は「インベスターZ」だ。

 中学生が株の取引きをするという話だけど、漫画を読むだけで日本の経済の勉強にもなる。

 作者の三田紀房みた のりふさは「ドラゴン桜」「ドラゴン桜2」というスポ根受験漫画も描いている。


 オレももうテストなんかすっかり関係のない年齢になってしまった。

 でも今にして思えば受験というのは努力に比例して結果の出る素敵なシステムだったような気がする。


 賛成してくれる人はあまり多くないと思うけど。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る