第189話 腕試し大会に出場する女

 その昔、若手医師の腕試し大会を企画したことがある。

 医師なら誰でも知っておいて欲しい知識や手技を競うものだ。


 出場したのは全国の病院に呼び掛けて集まった10数名の若手医師。

 午前中は10個のステーションを巡回する。


 あるステーションでは呼吸器を装着された患者のトラブルに対応する。

 モニター音の鳴り響く中、若手医師たちは必死の形相だ。


 別のステーションでは胸部痛の診断をする。

 急性心筋梗塞、大動脈解離、肺塞栓、緊張性気胸の致死的4疾患を見分けなくてはならない。


 そしてオレが担当したのは眩暈めまいのステーション。

 良性発作性頭位B P P V変換めまいの診断と治療。

 特に頭の模型を使って耳石置換法を実演するのはかなり難しいみたいで、誰もできなかった。


 午後は早押しクイズだ。

 午前中の巡回ステーションを勝ち抜いた精鋭4名が競う。

 出題者が「目の前にキラキラした光が見えてきた後に拍動性の頭痛が……」と言い始めた瞬間に一斉に目の前のボタンを押す。

 最初に押した人間が正解を言えば点数が入る。


 さて、記念すべき第1回大会は見事にウチの初期研修医が優勝!

 超優秀な彼女は午前中に圧倒的な差をつけてトップを確定した。

 午後の焦点は2位争いになってしまう。

 そして、すべての戦いが終わって感動のフィナーレ。

 優勝者には豪華賞品が贈られ、皆で讃えた。


 ところが、このような大会はエスカレートしがちだ。

 第2回、第3回となるにしたがって、総合診療や救急のレジデントが出場してくる。

 初期研修医そっちのけの本職同士の争いなので、和気藹々わきあいあいと楽しむ雰囲気ではなくなった。

 まあ、それはそれで見応えがあった。


 諸般の事情で結局3回しか開催されなかった腕試し大会。

 何といっても準備が大変だった。

 それでも皆で協力してやり遂げた。


 競ったのは若手だが、準備したオレ達もまだまだ若かったのだと思う。

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