第633話 生老病死を語る男 6
(前回からの続き)
オレがやってしまった大失敗というのは、せっかく作ったメモを自分の部屋に忘れてきたことだ。
見やすさを優先したため、スライドには必要最低限の事しか書いていない。
新聞でいえば見出しだけだ。
だから本文にあたる部分をメモに書いておいた。
しかし、そのメモを忘れてきてどうする。
もう取りに戻る時間もない。
しか~し!
ここで自ら考案した物忘れ対策が役に立つ。
なんと、スマホでメモを写真撮影していたのだ。
もうこういうのは癖になっている。
これをチラチラと見ながらしゃべれば良い。
本番では練習の甲斐あって、テンポ良く話し25分で終えた。
すでに遅れ気味で始まっていた事もあり、予定より5分早く終わり、進行に協力出来た事と思う。
そして、物忘れ対策にスマホで写真を撮る、という部分はメモを撮影した自分自身の体験を披露する事によって高齢者たちの笑いをとることができた。
ちゃんとウケたということは、オレの話を理解しているという事に
で、予定されたすべての講演が終わったあとが質問コーナーだ。
あらかじめ配られていた質問用紙に、ぞれぞれの講師に対する質問が書かれている。
オレあてに書かれたものとしては70代男性のものがあった。
その質問用紙には「医学的な面から物忘れ予防及びその為の生活習慣を御指導ください」と書かれている。
つまり「整理整頓しておけ」とか「スマホで写真を撮れ」とかいう裏ワザじゃなくて、
この質問者が求めているのは「地中海式食事法を実行すれば長寿が期待できるばかりか認知症の予防にもなる」とか、そういうアドバイスなんだと思う。
が、そんな都合のいいものがあるはずもないし、あったとしてもオレは知らない。
とはいえ、ここで質問に対して背中を見せるわけにはいかない。
思わぬ難問だ。
果たしてどう答えるべきなのか?
(次回に続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます