第42話 根拠なき幸せに包まれる男
休日の昼。
オレは布団の中で夢を見ていた。
こんな夢だ。
目の前には若い夫婦が、横には中年男性がいる。
オレたちは夫婦に庭の工事について説明していた。
庭の一部を補修しつつプールをつくってしまおう、という話だ。
話が一段落して雑談になった。
「嫌いなものは何ですか?」
唐突に奥さんの方に尋ねられた。
「嫌いな食べ物とか、そんな事ですか?」
相手の意図が良く分からないので、わざと外し気味の質問で返した。
すると横の中年男性が語り始めた。
「私は病院での説明ですね。検査で小さな腫瘍がみつかったのですが、それが良性か悪性かについては言葉を濁されて『様子をみましょう』と言われちゃったんですよ」
「それはひどい。ちゃんと言って欲しいですよね」
若い御主人が賛同した。
オレはもう眠かったので目を閉じたまま言った。
「実は私は医師でもありまして。勤務医なんですよ」
「!」
オレ以外の3人が驚愕した。
「最近の画像検査の進歩で、ものすごく小さな癌や良性腫瘍が沢山みつかるようになりましてね」
オレは寝ながら説明した。
「あまりにも小さいと悪性か良性か区別がつかないんです。悪性かもしれないからって無闇に手術するわけにもいかないし、かといって放置していて手遅れになってもいけないし。結局、『定期的に画像検査を行いつつ様子をみましょう』という説明になってしまうんです」
もうオレは夢の中でも熟睡していたが、口が勝手にしゃべっている。
その時、ふと目が覚めた。
気がついたら日曜日の午後、自宅の布団で寝ていたのだ。
夢の意味するところは不明だが、気分は良かった。
根拠なき幸せってところかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます