第763話 国家試験に苦しむ男 2

(前回からの続き)


 臨床工学技士とか鍼灸師しんきゅうしなどになると、もっとわけの分からないものが出題されている。


 たとえば臨床工学技士の場合はこんなものが出題された。


 生体の電気特性で誤っているのはどれか。

  a: 神経細胞の活動電位の持続時間は約1秒である。

  b: 静止電位は細胞内外のイオン濃度差に起因する。

  c: 脱分極では細胞内の電位が正方向に変化する。

  d: βベータ分散は組織の構造に起因する。

  e: γガンマ分散はイオンの集散に起因する。


  1. a b 2. a e 3. b c 4. c d 5. d e


 これは連続する2つの選択肢を選ぶタイプの国家試験問題だ。

 しか~し。

 βベータ分散とかγガンマ分散とか、そんなものは知りませんがな。

 解答は「2」なのだそうだ。


 確かに神経細胞の活動電位の持続時間は1ミリ秒くらいだし、静止電位は細胞内外のイオン濃度差に起因する。

 つまり、aが「誤」、bが「正」となるわけだ。

 だから連続する誤った選択肢は「a e」となるしかない。

 βベータ分散やγガンマ分散を全く知らなくても正解を導くことはできる。


 とはいえ、難しいよなあ。

 正解が分かっても、できた気がしない。



 鍼灸師しんきゅうしの国家試験となるとさらに意味不明だ。


 右腓腹筋ひふくきんの緊張が亢進しているとき、右承山しょうざん刺鍼ししんしたところ筋緊張が軽減した。関与したと考えられるのはどれか。

 1. 相反抑制

 2. 屈曲反射

 3. 自原じげん抑制

 4. 伸張反射


 そもそも「承山」ってのはツボの名前かね?

 ナントカ抑制とかカントカ反射だとか、勘弁してくれ。

 もう何もわからねえよ。


 待て待て、冷静になろうぜ。

 「承山って何?」とかは考えずに、明白な事実だけを並べてみよう。


 すると、

・ふくらはぎの筋肉たる腓腹筋にはりを刺した

・すると緊張していた腓腹筋が弛緩しかんした

 つまり、「緊張していた筋肉に何らかの介入をすると弛緩しかんした」という単純な現象の記述になる。


 これは緊張しすぎた筋肉が断裂するのを防ぐ自原じげん抑制、別名Ibワンビー抑制よくせいって奴らしい。


 筋肉が頑張りすぎると自らを損傷する危険性がある。

 だから作用筋をゆるめるとともに、それと反対に働く役目を持つ拮抗筋きっこうきんを緊張させることによって断裂しないようにするメカニズムが内在されているわけだ。


「承山」とやらを知らなくても「3」という正解を導くことができる。


 とはいえ、ここまで読んでくれた人達には何のことやらさっぱり分からない事と思う。

 心配しないで欲しい。

 オレも全く分かっていない。


 1つ言えるのは、このあたりの知識は看護学生が持っている必要はなさそうだ、ということだ。


 だから、講義では薬剤師とか理学療法士だとか臨床検査技師だとか。

 もう少しフレンドリーそうな国家試験問題から引用しよう。


(次回に続く)


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