第764話 国家試験に苦しむ男 3

(前回からの続き)


 前回はいささか難しい話になってしまった。

 看護師でも臨床工学技士りんしょうこうがくぎしでも鍼灸師しんきゅうしでも、おそらく国家試験の7割くらいは同じような問題が出るのだと思う。

 が、残り3割がそれぞれの職種特有のマニアックな問題になってしまうのだろう。

 そりゃあ「αアルファ分散」も「承山しょうざん」も他の職種にとっては知ったこっちゃない。

 何でも知っていそうな医師にしても、実は知らないことが沢山ある。


 話を解剖に戻す。


 オレの考える人体の全体構造はこうだ。


 まず、人間の身体というのは多くのシステムから出来ている。

 神経系とか消化器系とか循環器系とか呼吸器系とか。

 だから心臓と肺は両方とも胸腔内きょうくうないにあるが、システムとしては別扱いされる。


 この事は家にたとえてみると分かりやすい。

 電気、上下水道、ガスなど。

 それぞれに別のシステムだし、不具合があったときの修理業者も違っている。


 ただし、ガス給湯器きゅうとうきが壊れたときなんかは難しい事がある。

 修理を頼む先が水道屋になるのかガス屋になるのか?

 それがよく分からなかったりする。


 それはさておき、オレが看護学校で教えるのは神経解剖なので、神経系について説明しよう。

 神経系というのは簡単に言えば情報の伝達をするシステムだ。

 当然、インプットとアウトプットがある。

 外からの情報が脳に入ってくるのがインプットだ。

 そして、脳からの情報がアウトプットされて言葉や手足の動きとなる。


 この「インプットとアウトプット」は色々な言い換えがなされている。


 まず、「入力系と出力系」。

 これは単に英語を日本語訳にしただけだ。


 次に、「感覚と運動」。

 熱い・冷たいとか痛いなどの感覚が指先から脳に伝達されるのが「感覚」

 脳からの命令に応じて指先を動かすのが「運動」だ。


 さらに「求心性きゅうしんせい遠心性えんしんせい」。

 求心性は読んで字の如く、脳という人体の中心に向かって情報が集まるイメージだ。

 逆に遠心性は脳から情報が遠方に向かうイメージだ。

 だから求心性は感覚で遠心性は運動にあたる。


 そして「上行性じょうこうせい下行性かこうせい」。

 上行性というのは足先から情報が脳に向かって上がっていくイメージがあり、こいつは感覚だ。

 一方、下行性というのは脳から足先に向かって情報が下りていくイメージがあり、こいつは運動になる。


 よって、「入力系と出力系」、「感覚と運動」、「求心性と遠心性」、「上行性と下行性」というのは、ほぼ同じ意味で使われる。

 これらの使い分けは無意識に行われているので、あまりこだわらない方が良い。


 ここまでは難しくも何ともない話だ。

 徐々に複雑になってくるのはこの先になる。


 とはいえ、この先こそ神経解剖の醍醐味だいごみと言えるかもしれない。

 できるだけ分かりやすく説明したい。


(次回に続く)

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