第754話 アスピリン喘息の女 3

(前回からの続き)


ったのかっていないのか、イエスかノーかで答えてください!」

「あの、貼りました」

「で、貼ったけど呼吸困難は起こらなかったわけですね」

「1回にもらうのは5袋くらいなの」


 もうね、人の質問を真面目に聴いてる?


いた事に答えてもらえませんか! 息が苦しくなったのかならなかったのか?」

「息は大丈夫でした」

「最初からそう言ってくれればいいんですよ!」

「先生……怖い」


 それからオレは怒りを抑えながら必要な情報を訊き出した。

 これまでモーラステープを何百枚も貼ったのに1度たりとも呼吸困難がおこらなかった事がようやく判明する。


 ということは、全然アスピリン喘息ぜんそくではないじゃん!

 注意してNSAIDsエヌセイズを避けて来たこれまでの苦労は一体なんだったわけ?

 ま、オレが苦労したわけではないんだけど。


 逆に、点滴に入っていた別の薬が呼吸困難の原因になったのかもしれない。

 ただ、そいつはいまだに正体不明。

 でも多分アスピリンは大丈夫。


 もしかして30年前の担当医が点滴の中にメチロンか何かを入れていて呼吸困難の原因になったのかもしれない。

 メチロンはピリン系だけどアスピリンとは別の薬だ。

 名前が似ているから担当医が勘違いしたのかもしれない。

 その場合、アスピリン喘息はないけどピリン系アレルギーはあるという事になる。


 どっちにしても肺炎球菌ワクチン、いわゆるニューモバックスにはNSAIDsエヌセイズもピリン系も含まれていないので大丈夫そうだ。


 ピリン系のアレルギーの有無を調べようと思ったら、実際にピリン系を使ってみて副作用の有無をみればいいのだけど、誰もわざわざそんな冒険をしたくはない。

 オレもしかり。


 ということで、来週に肺炎球菌ワクチンを打つためにワクチンを取り寄せる手配を行った。


 いくら大丈夫そうだと思っても詰めが甘いと話にならない。

 実際にワクチンを打つ際に注意すべき事を考えておく。

  注射後に30分間の経過観察。

  万一の急変に備えて対応手順のおさらい。

  気分不良だけなら血管迷走反V V R射だから放置しても大丈夫。

  が、アナフィラキシーショックが問題だ。

  呼吸困難、血圧低下、発疹ほっしん、腹痛が出たら即応すべし。

  まずはアドレナリン筋注きんちゅう、酸素吸入、抗ヒスタミン薬筋注。

  落ち着いてルート確保、ステロイド静注じょうちゅうといったところか。

  この機会に気道確保の道具一式の場所を確認しておこう。

  念のためラピッドレスポンスチームのPHS番号も再確認。


 こういう事は大袈裟おおげさすぎるくらいの準備をしておいて「なあんだ、結局は何もおこらなかったじゃないか」と世間様に苦笑にがわらいされるくらいで丁度いい。


 大山鳴動たいざんめいどうして鼠一匹ねずみいっぴき


 これこそオレの座右ざゆうめいだ。


(「アスピリン喘息の女」シリーズ 完)

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