第571話 後回しにする男
何となく某病院で過労死したレジデントの事件を思い出す。
この事件については第535話「働きすぎた男」で述べた。
月200時間の超勤で心身ともにダメージを受け、最後に学会発表の準備でとどめを刺されたものだ。
オレの場合も過労ぎみだ。
やるべき宿題が山積みになって
土日も家で仕事をしないと
本来なら今の季節、暇な日々が続くはずだった。
その
知り合いからかかってきた1本の電話がキッカケだった。
その先生が
非専門家向けに頭部外傷後の高次脳機能障害を説明してくれ、というもの。
スケジュールも空いていたので簡単に引き受けた。
考えてみれば、これが間違いの始まりだった。
しばらくして、とある学会からシンポジウムでの発表を頼まれた。
断ることのできない相手だ。
新たなテーマだったので、ゼロからスライドを準備する必要がある。
ちょっと重いな、オレにとっては。
ところが同じ学会の別の部門からコメンテーターを頼まれてしまった。
10人ほどの英語発表のセッションがあり、そこでコメンテーターをして欲しいというもの。
これはかなりズシッと来る。
というのも
ざっと眺めてみると中身はバラバラで色々な領域に渡る。
泌尿器科もあれば整形外科もある。
英語でどうこう以前に、それぞれの疾患自体を勉強しなくてはならない。
さらに院内の病理カンファレンスの司会の順番が当たっていたことに気づいた。
半年ほど前に死亡した入院患者の病理解剖が行われていたのだ。
病理の結果に基づいて経過や病態について皆で集まって議論する。
参加者は20~30人ほどだろうか。
初期研修医全員と当該診療科の医師、そして当番の司会者だ。
その司会進行役に自分が当たっていたのをすっかり忘れていた。
カンファレンス自体は1時間ほどで終わるものだが、その後で報告書を作成しなくてはならない。
これがナントカ症候群とかカントカ病とか、生まれて初めて聞くような難病奇病だったりしがちだ。
だから真剣に勉強しなくては1行たりとも報告書を書けない。
そういえば事務の方から経営改善のための策を診療科ごとに出してくれ、というのも来ていた。
締切がいつだか覚えていないが、たぶん2週間以内だろう。
こうなったら病院全体に対する改善策を立てるか。
まずは、夜間救急外来からの経過観察入院を推進する。
驚いた事に現在の
いうまでもなく敗血症は超重症で、急性アルコール中毒や頭部打撲は超軽症だ。
にもかかわらず入院基本料は後者の方が高い。
ということは、これら軽症でありながら診療費用の高い患者を短期間だけ入院させるというのが経営上は最も効率的だということになる。
また、外来診療では指導料の算定漏れが問題だ。
普通の再診料はタダみたいな値段だが、てんかん指導や難病指導を行うと一気に売上が増える。
が、なんといっても勤務医はサラリーマンだ。
自分の給料には関係ないからと、これら指導料の算定を忘れたままにしている事が多い。
中には指導料の存在そのものを知らない医師もいる。
こういった提案を文書にまとめて事務に提出しなくてはならない。
が、なんせ作成の時間がない。
そういえば看護学校の終講試験の問題も頼まれていたのだった。
確か試験は10日後、締め切りはすぐだ。
記述式にすると採点まで自分でやる羽目になるので4択問題にしよう。
それなら採点は看護学校の教員に頼む事ができる。
うーん、苦しい!
さらに先日のこと、グループ内の他の病院で医療安全調査委員会が行われた。
入院患者が
なぜか、オレが報告書作成担当者になってしまった。
これが難物だ。
事務方によれば、これまでに作成された数十の報告書の中で、1番早いものが完成するまで35日、長いものは1年半かかったということだった。
締切がないとはいえ、報告書の提出は早いにこしたことはない。
とりあえず手をつける。
これとは別に週刊誌と月間誌への寄稿がある。
もちろん自分に課したカクヨムの締め切りは毎日だ。
どうしたらいいんだべ!
コツは一気にやってしまうか、とことん後回しにするかだと思う。
締切のあるものは最優先。
締切のないものはひたすら後回し。
もちろん完成まで1年半というのは論外だけど。
とにかく、順に片付けていくしかない。
もし仕事が増え過ぎてどうにもならなくなったら、知らん顔をしてやり過ごそう。
オレ、過労死するほどの責任感もないし、給料ももらっていないからね。
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