診察室のトホホホホ

第294話 7階から飛び降りた女

かつて、「不倫は異文化交流だ」と言った芸能人がいた。

確かにニュースの見出しとしては面白い。

また、世の中には色々な考え方を持つ人がいるのも事実だ。

が、今のオレには笑えない。

不倫は不幸な女を作るだけの行為ではないかと思う。

1人ではなく、少なくとも2人。

オレがずっと脳外科外来でみていた女性が自殺した。

夫婦喧嘩の直後にマンションの7階から飛び降りたのだそうだ。

彼女も旦那も40代。

思春期の娘がいた。

オレは旦那の愛人について、時々、外来で悩みを聞かされた。

その事で夫婦喧嘩が絶えないのだとも。

でも、子供さえいなかったら別れるのに、という話にはならなかった。

それよりも、旦那の体の心配ばかりしていたのだ。

他の医療機関で「あそこが悪い、ここが悪い」と言われた。

だから診てやってくれないか、と。

オレが奥さんに外来で頼まれるのはそんなことばかりだ。

だから、その都度、オレは自分が診たり、しかるべき診療科にコンサルをかけた。

もちろん旦那の話だ。

なぜか旦那の実母も別にオレの外来に来ていた。

こちらはもう80歳にもなろうという年齢なので、悪い所だらけだ。

でも、いつも「ウチの嫁は本当によくやってくれている」と褒めていた。

奥さんの死後、旦那がオレに会いたいと脳外科外来にやって来たそうだ。

もちろん自分の健康状態についての話でないのは明らかだ。

一体、どんな顔をして会えばいいのか？

不思議な事に、オレ自身は旦那を責める気持ちは全くない。

今回の原因について心当たりはありますか、と尋ねるくらいだろうか？

旦那は旦那の考えがあるだろうし、吐き出したい事もあるに違いない。

それについては単に耳を傾けるだけだ。

あと、「奥さんはいつも御主人の体の事ばかり心配しておられましたよ」という事は伝えておかなくては、と思う。