第413話 腹の痛くなった男

夜中に腹痛で目を覚ました。

急いでトイレに行く。

案の定、下痢だ。


これを我が家では「栓が抜けた」という。


栓の抜けた理由は簡単。

昼食抜きで夕食を大量に食べたからだ。

大量というほどではない、1人前にすぎない。

でも、オレの胃袋には多すぎたのだろう。


昼食を抜いたのは手術があったからだ。

朝から始まって夕方に終わる手術。

脳外科では普通の長さだ。

でも、もう体力がついていかない気がする。


手術が終わって、書類仕事を終えて、病棟を回診する。

オレより元気な患者の長話にはつきあえない。

だから早々に回診を切り上げて帰宅した。


さて、夜中のトイレで用を足すと腹痛が少しマシになった。


そのまま眠り込んで目が覚めると朝の4時だ。

スマホで YouTube……を見るわけにはいかない、音が出るもんな。

だから Kindle の電子書籍の中から適当なものを読もうとした。


なぜか出て来たのが「女のいない男たち」

村上春樹の短編小説集だ。

表題になっている小説は最後にある。


最初が「ドライブ・マイ・カー」で、これを読むために買った。

というのも、映画化されてアカデミー賞をとったからだ。

調べてみるとカンヌ国際映画祭でも賞をとっている。


映画はともかくとして、原作はどんなのだろう?

そう思って購入したのだと思う。


面白い、そして上手い。


高校生の自分が、大人の人から知らない世界の話を聞かせてもらうような感覚。

一言で表現すると、そうなるだろうか。


彼の作品の中で1番好きなのはデビュー作「風の歌を聴け」だ。

もし無人島に1冊だけ持っていくとしたら、その有力候補になる。

残念ながら最近の大作はほとんど読んでいない。


総合診療科そうしんカンファレンスで、新刊を購入したと誰かが言ってた。

「でも、バイト先に忘れて来ちまったんだよな」と残念そうな顔だ。

3,000円近い値段だから、オレも気安く買うわけにいかない。


それにしても思うのは……


もし、村上春樹が匿名でカクヨムに投稿したら読者の反応やいかに?

やっぱり異世界転生や悪役令嬢の中に埋もれてしまうのかな。

せめて、出版界の玄人くろうとたちの目には止まってほしいのだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る