第412話 コンサルトの来る男

 その日、総合診療科外来に来たのは整形外科からのコンサルトだ。


 入院中の高齢男性。

 術後の感染がずっと続いていて、長い間、抗菌薬を使っている。

 発熱や明らかな創部感染はない。

 しかし、CRPという炎症反応を示す数値が微妙に高い。

 くすぶっている状態と考えればいいのだろうか。


 で、相談というのはこうだった。


 貧血があります。

 8台だったヘモグロビン値が7台を経て6台になったので輸血しました。

 便潜血は2回調べていずれも陰性でした。

 このままの治療でいいのでしょうか?


 そんな感じだった。


 整形外科らしい大雑把なコンサルだ。

 これに対して総診のフリをした脳外科医のオレが答えることになる。

 そんなんでいいのか?


 ただ、整形外科医にとって相談先が不明というのも大問題だ。

 内科は複雑に枝分かれして〇〇内科が乱立している。


 それに内科医に難しいことを言われても整形外科医には分からない。

 名前も知らないややこしい検査をしろと言われるのが関の山。

 だから総診だ、だからオレだ。

 そう思えば納得できる。



 で、これまでの経過をカルテで確認した。


 抗菌薬はかれこれ3ヶ月ほど使っている。

 ヘモグロビンの数値は7台と8台を行ったりきたり。

 時に6台になることもある。

 そして鉄剤がずっと投与されている。


 外科系診療科には「あるある」の経過だ。



 オレは無い知恵を絞り出して答えた。


 おそらく長期感染症による慢性消耗性の貧血だと思われます。

 それがベースにあるのでしょう。

 ヘモグロビン値に波があるのは当然。

 値が下がったら輸血をする対症療法が基本になります。


 その上で。


 急に貧血が進行した場合、消化管出血を疑って内視鏡を考えべきです。

 ただ、便潜血が2回とも陰性で尿素窒素BUNの上昇もみられません。

 だから内視鏡検査に踏み切りにくいのも当然でしょう。


 消化管出血があると、その血液が吸収されてBUN上昇がみられる。

 出血があることの間接的な証拠だけど、本例にはそれが見られない。

 だからなかなか上下内視鏡ってわけにはいかないわけだ。


 さらに回答を続ける。


 鉄剤が投与されているわりにはモニターがされていませんね。

 フェリチン、総鉄結合能TIBC不飽和鉄結合能UIBC、血清鉄を見てください。

 ビタミンB12、葉酸、銅、亜鉛、エリスロポエチンも調べましょう。


 念のため、血液内科にコンサルした方がいいと思います。

 再生不良性貧血や骨髄異型性症候群の有無を確認すべきです。


 ここまで書いてふと思った。


 最初から血液内科に相談すればいいじゃん!

 彼らなら貧血のマネジメントにけているはず。


 でも、思い直した。

 返ってくる答えなんか見えている。


 骨髄穿刺をしました。

 〇〇病や××症候群のような血液疾患はありませんでした。

 当科的疾患の可能性は極めて低いです、以上。


 やっぱりコンサルトの先は総診がよさそうだ。


 でも、オレなんか総診の皮を被った脳外科医なんだけどな。

 あんまり難しい事を尋ねられても分からんよ、トホホホホ。

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