第592話 食べない女 1
「
そうオレに言ったのは市内でクリニックを経営している精神科医。
彼女は
オレの外来患者を紹介することも可能か、ということを母親の診察のついでに尋ねてみたら冒頭の答えが返ってきた。
実は脳外科の患者の中にも心を病む人がいる。
たとえば頭部外傷後の
ちょっと落ち込んでいるという程度なら取り
が、「死にたい」とか「走ってくる電車に吸い込まれそう」とか言い出したらもうオレの手に負えない。
そんな場合には
とはいえ、精神科医にも専門があるようだ。
精神科における花形疾患はおそらく統合失調症や
一方でパーソナリティ障害や摂食障害という地味な疾患を専門とする精神科医がいるのも事実だ。
何かを専門とするというのは、その領域の疾患の診療が得意だ、ということになる。
得意があるということは苦手もある、ということになるのは当然だ。
今、オレの目の前にいる精神科医が何を専門としているかは不明だが、摂食障害の患者が苦手だ、ということは間違いなさそうだ。
摂食障害というのは
が、その多くが
時に激やせした有名人の写真が週刊誌に載ることもあるので、一般の人にも何となくイメージできるはず。
数字でいえば、身長155センチで体重が35キロとか、そんな感じになる。
そのくらい
時には歩くことすら困難になる。
それでも本人は自分が太りすぎているのではないかという恐怖で食べない、もしくは食べたものを吐いてしまう。
食べたものを吐く場合、摂食はしているのだから厳密に言えば「
だから最近は「神経性やせ症」とするのが医学的に正しいらしい。
一方、マスコミや一般人は昔から「
病名の短さと無難さから、医療従事者は
さて、摂食障害患者。
精神科医の中にも苦手とする医師がいるくらいなので、極めて治療が難しい。
そもそも食べないという行為は自殺の一種だといえる。
だから本人に食べるように
が、強固な信念のもとに食べなかったり吐いたりする患者に食べさせるというのは至難の業だ。
だから、こういう患者がいよいよ生命の危機という状態になって入院した場合、とりあえずは点滴や輸血などで
根本的な治療ではないにしても、とりあえず生命の危機を脱するというのが目標になるのだ。
実はひょんな事から、オレたち総合診療科が何人かの摂食障害患者に関わるようになった。
そして、その闇の深さを思い知らされることになったのだ。
(次回に続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます