第619話 発作の出る男 6
(前回からの続き)
興奮した伯母から電話がかかってきたのは翌朝早くだった。
「効いた! ニトロペンが効いてスッと楽になったのよ」
なんとニトロペンが発作に
ということは、あの発作は喘息ではなく狭心症だったということになる。
たった1回だけど、
「じゃあ次は予防ね。今からアムロジンを持って行くからのんでみて!」
いつの間にか妻の手にはオレのアムロジンが握られていた。
「それ、オレの内服薬なんだけど」
血圧が高めのオレは以前からカルシウム拮抗薬であるアムロジンを毎日のんでいる。
「あら、これは失礼」
「伯父さんに持って行くのは良いけどさ、半分だけオレに残しておいてくれないかな?」
アムロジンは
だからこれをのめば発作も抑えられるはず。
ボクシングでいえば、劣勢の中で苦し
すかさずアムロジンでラッシュをかけてやる。
それがオレたちの作戦だ。
次の朝、オレたちはアムロジンの戦果報告を待った。
なんと発作が全く起こらず、朝までぐっすり眠れたのだとか!
期待以上の効果だった。
以来、アムロジンをのみ続ける伯父に発作は全く
そればかりか、伯父はみるみる元気になり朝のラジオ体操と布団上げを再開した。
おそらく狭心症発作に心不全が加わって悪循環に陥っていたのだろう。
田舎に戻って運転免許証の書き換えをすませ、その足で別の所にいる親戚を訪ねたいから
「そんな馬鹿な。命と親戚とどっちが大切なのよ!」
そう妻が言っても聞き入れない。
ついに頑固親父が復活した。
色々説得してようやく準田先生の外来をキャンセルではなく先延ばしにすることになった。
それにしても喘息発作と狭心症発作の
さらに恐るべきはアムロジンの威力。
振り返ってみれば、呼吸器内科医といえども常に狭心症発作の可能性を念頭において診療にあたるべきではなかったか、と思わされた。
夜中の発作を喘息だと思い込んだところからボタンの掛け違いが起こったのだ。
もちろん同じことは循環器内科医にもいえる。
とはいえ、そう思い込んだのも無理もないかもしれない。
喘息発作と狭心症発作はそっくりだ。
呼吸器内科医や循環器内科医が
結局、正しい診断を
ともあれ、身内とはいえオレたちに多くの教訓を残した症例だった。
オレとしてはこれを機会に素直な伯父さんになって欲しいと思うんだけど、そっちの方は無理そうだ。
ともあれ、良かった良かった。
(次回に続く)
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