第69話 大掃除で恥じらう女

オレが以前、勤めていた病院に「美人女医局びじんじょいきょく」というのがあった。

遠く、昭和の時代に女医さん専用の部屋として使われていたらしい。

広大な部屋に冷蔵庫とチェストが置いてあり、しかも奥にはトイレまである。


もともとは「女医局じょいきょく」という昭和っぽい看板がついていたそうだ。

その後、女医さんたちが美人女医局と自称するようになった。

もちろん美人局つつもたせではない。

オレも彼女らもその程度の教養はある。


かつて5人ほどの女性医師が優雅に使っていた。

だんだん他の部屋が手狭てぜまになるにしたがって、男性医師もこの部屋を使うようになった。

しかし、大勢の女性の中に男が少数というのはいかにも肩身が狭い。

オレもその1人だが、何となく息を潜めて過ごすという感じになる。


一方、マジョリティーの女性医師たちは傍若無人ぼうじゃくぶじんだ。


いつも何か食べながらしゃべっている。


「バリバリ、ボリボリ」

「ギャッハッハッハ!」


そして中の1人が奥のトイレに行く。


「ガチャン」(ドアの開閉音)

「ジョンジョロジョロジョロ~」(排泄音)

「ドバーッ!」(水を流す音)


恥じらいなどというものは何処どこかに消し飛んでいるみたいだ。

そして再び「バリボリ、ギャハハ」が繰り返される。


オレたち男は机に向かって気配を消しているしかない。


そんなある日の事。

年末大掃除があった。


いい機会なので冷蔵庫の中も整理することになった。

病院の女性秘書がやってきて扉を開ける。


冷蔵庫の中からは、出るわ出るわ。

期限の切れたお菓子や果物や何やかんや。

何でもため込むというのは、本能なのだろうか?


「もう、同性として恥ずかしいです」


なぜか秘書の方が顔を赤らめていた。


困ったもんだ。

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