第659話 米軍の夢を見る男

 夢の中でオレは夜遅く妻と繁華街を歩いていた。


 もう時刻は午前0時を回ろうとしている。

 終電はまだ残っているらしい。


 妻とオレは別の方向に帰ることになっている。


「夜中に外を歩くなんて危ないぞ。オレの所に泊まったら?」


 そう言いながら真っ暗な道を歩いているところで目が覚めた。

 

 いやいや、夫婦だから同じ家に帰るのが普通だ。

 帰る先が別ってのはおかしい。

 ひょっとして夢の設定が結婚前になっていたのだろうか?

 

 トイレに行ってから、また布団にもぐりこむ。


 次の夢の中、オレ達は1日の戦闘を終えて疲れていた。

 なぜかオレは米国陸軍の一員として戦っている。


 部隊は接収したホテルに戻った。

 早速、ホテルに陣取っている将軍に帰投報告にいく。


 が、部下どもは誰もついて来ない。

 勝手に階段を上がって、それぞれの部屋に向かっている。


「おいおいおい、集合しろよ!」


 そう怒鳴ったけど、誰も振り向かない。

 困ったもんだ。


 そこで目が覚めた。

 なんだか最近はよく夢を見る。

 夢ってのは現実世界を象徴しているのだろうか。


 ちなみに米国陸軍なのでやり取りはすべて英語だった。

 でも、英語で何と言ったのだろうか。


 起きてから調べてみると「集合しろ」は"Gather!"

「帰投報告します」ってのは、"Sir, here's the return report." というみたいだ。


 一生使いそうもない英語を調べたり憶えたり。

 何かの役に立つのかな?



 思い出すのはアメリカに留学していた時の事。

 研究室では兵役経験のある同僚が少なくなかった。

 思い出すだけでも、イスラエル、スウェーデン、タイ、ドイツ、台湾など。


 研究室のボスはイスラエル生まれだが、何故か兵役はスイスだった。

「軍隊ではローザンヌにいた。あそこはフランス語圏だったからなあ」とのこと。

 ボスは英独仏語の他にヘブライ語もあやつっていたが、フランス語については軍隊で憶えたのだそうだ。


 韓国出身の同僚は「もし戦争になったら、その時点で軍隊にいる奴が戦う事になっているんだ。だから、兵役にいていた時ほど心の底から世界平和を祈ったことはなかったよ」と言っていた。


 それら紛争の危険にさらされている国々に比べると、日本は戦後80年近くほとんど戦争に巻き込まれることなく過ごしてきた。

 平和ほど有難いものはない。

 健康と同じで、普段はその大切さを忘れがちなんだけど。


「正義の戦争より腐った平和」ということわざがあるが、その通りだと思う。

 独裁者の命令によって若者たちが殺し合いをさせられるニュースには胸が痛む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る