第257話 変態よばわりされた男
「先生は
左右から女子2人に言われた。
1人は脳神経外科レジデント、もう1人は医師事務だ。
「変態で結構!」
オレは言い返した。
手術をしている人間は
しかしモニターを通して見ている人間にとってはピンボケだ。
当然のことながら記録するビデオ画像も同じようにボケてしまう。
これを後でいくらいじっても修正することはできない。
だから手術の際に術者がきちんと
「いいか、
「編集……ですか」
「出血させた部分はすべてカットして美しい場面だけつなぎあわせるんだ」
「なるほど」
「そして、音楽を入れて自分の世界に
その瞬間、オレの話を聞いていた女子2人の目が点になった。
「あの……どんな音楽を入れるんでしょうか?」
「ムフフ、よく
「えっと、その人は歌手なのですか」
「サックス奏者になるのかな。YouTube で聞かせてあげよう」
そう言って、オレは YouTube から "
レーシングドライバー松本恵二の登場するCMで使われたものだ。
「なかなか渋いサックスですね」
そうだろ、そうだろ!
こうなったらオレの話は止まらないぜ。
「次が "Will you still cry?" だ」
「なんだか戦いに行く前の音楽のような」
「いよいよラスボスが出てくるみたいだろう!」
2人が少しずつ後ずさりしていく。
「そして "Danger Zone" で、トム・クルーズになりきるわけよ」
「……」
「映画のオープニングで使われたバージョンがベストだ。延々と前奏が続くヤツな」
そう言った途端に冒頭のセリフを浴びせられる羽目になった。
「へ、変態だ!」
「先生は変態だったんですね」
なんと失敬な!
「いやいや、自分の手術ビデオを編集して音楽を入れるなんか普通のことじゃないか」
「いえ、ちっとも普通じゃありませんよ」
「そうかな。でもオレは変態と言われたぐらいでは動じないね。上等だ!」
ということで、この論争は物別れに終わった。
実は、オレにはもっと大きな
自分の書いたカクヨム小説を自分で読んでニヤニヤしている事だ。
それだけじゃない。
感動していることすらある。
これを誰かに目撃されたら大変な事になってしまう。
でも、かつて作家の落合信彦は担当編集者にこう言われたそうだ。
「先生、原稿用紙のインクが
「それは……涙だ」と落合信彦は答えた。
なんと自分で原稿を書きながら泣いていたのだ。
このくらいネジが飛んでいないと作家なんてやってられないのだろう。
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