第449話 泥棒に入られた男

 その昔、泥棒に入られた事がある。


 妻を空港まで車で送り、帰宅した時の事だ。

 自宅の鍵を開けて入ろうとしたら入れなかった。

「おかしいな」と思って、再度鍵を回したら、今度は入れた。


 後で考えてみると、オレが帰ったときに玄関の鍵が開いていたのだ。

 だから、鍵を回すと逆に閉錠する結果になる。

 それで入ることができなかった。


 何も考えずに部屋に入ると、ものすごく散らかっている。

「あれっ、こんなに散らかした記憶はないのにな」と思ってベランダの扉を開けようとしたらガラスが割れていた。

 要するに泥棒に入られていたのだ!

 泥棒はベランダからガラスを割って侵入し、室内を荒らした後に玄関の鍵を開けて出て行った、ということで説明がつく。


 慌てて警察に電話した。


 最初に到着した警官は玄関の電気を消して懐中電灯で床を照らす。

 侵入者の靴の足跡が残っていないかを確認するためだ。


 続いて大勢の警官だか刑事だかがやって来た。

 部屋中の家具に粉を塗って犯人の指紋をとる。

 ついでにオレの指紋も取られた。


「じゃあ、犯人を捕まえたら連絡しますんで」


 そういって警察は引き上げた。

「捕まったら」ということは、滅多に捕まらないのか?


 被害は現金5万円と腕時計だった。


「時計を盗られるなんてショックですね!」


 泥棒に入られた話を救急室でしていたら、スタッフにそう言われた。

 貰い物の高価な腕時計なので身につけた事がなく、新品のものだ。

 数十万円はしないが数万円はするものだろう。


 手術や処置の時に外すので、オレはいつも数千円の安い時計をしている。

 これは軽いし紛失しても惜しくはない。


 実際、失くしたり壊れたりで、現在しているものは5個目くらいだ。


「だから失くしても平気な時計をしているわけよ、8000円くらいの。ちょうど持ち主の程度に合ってるかな」


 オレがそう言ったら、スタッフには「御冗談を!」と言われた。


 ほかにも窃盗被害が頻発したせいか、現在、マンション全体に監視カメラが設置されている。

 自宅の方は二重鍵にしたり強化ガラスにしたりした。


 以来、空き巣にあうことはなくなった。


 今では自宅よりも車の方の窃盗を心配しなくてはならない。

 自分なりの対策はしているけど、盗られたという話はチラホラ耳にする。

 困ったもんだ。

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