第882話 イジメられる男 4
(前回からの続き)
国際イジメ大会の分析とか、大胆なテーマを設定してしまった。
実は在米時代、イジメとか差別といったセンシティブな話を研究室のメンバーとする事が良くあった。
日本では、話す相手を選ばないと大変な地雷を踏んでしまう恐れがある。
が、異国の研究室で、しかも教育水準の高い人たち相手だとそんな心配は無用だ。
イジメとか差別といった行動が、人間のどのような本能に基づいて行われるのか?
事の善悪よりも、そういった真実の追求の方が面白いからだろう。
世間から見て恵まれた境遇にある彼らとて、この世が理不尽に満ちている事は良く知っているし、また口に出さないだけで自らも経験してきたに違いない。
オレが憶えているのはアルバイトで来ていた医学生2人とした話だ。
1人は医師である父親についてヨーロッパからやってきたミケーレ。
もう1人は日系アメリカ人のケンだ。
オレは休憩時間に彼ら2人でランチを食べながらそんな話をしたものだ。
彼らは日本という国に興味
オレも詳しい事は分からないから、知っている範囲での回答にならざるを得ない。
で、いつしか話はアメリカで生きていくための条件になった。
もちろん白人かつ
白人といってもランクがあるらしく、先祖が北欧系か西欧系が上位だとか。
そしてユダヤ系に対しては目に見えない差別があるのだそうだ。
ミケーレは10歳くらいでアメリカにやって来たため、訛りが抜けない。
渡米した時に7歳だった弟の方は完璧なアメリカ英語を喋る。
一方、ケンは生まれ育ちともアメリカなので普通の英語だ。
日本語の方も発音が良いのであまり違和感はない。
が、本人によればボキャブラリーが少ないので日常会話でも苦しいとのこと。
彼ら日系アメリカ人は部分的に日本の生活習慣を保っている。
だからケンも家の中では靴を脱いでいるのだそうだ。
で、この2人とピザを食べながらしていたオレがしていた議論はこうだ。
ズバリ、アメリカではどちらが生きていきやすいのか?
白人であることか、訛りのない英語を喋ることか。
2人が口を揃えて言うには、人種や見た目より英語の方が重要なのだそうだ。
結局、アメリカ英語を喋っている人間が仲間とみなされるのだろう。
因みに何十人もいた研究室ではイジメだとか差別だとか、そういう不愉快な思いは全く経験しなかった。
人種や国籍、英語の
また業績を出せていない人間をダメ人間扱いすることもなかった。
……少しはあったかな。
でも研究室から1歩外に出て病院の中になると、そこそこ不愉快な思いをする事はあった。
ポジションに合っていない無能な人間は
でも、それは日本でも同じ事だし、まあ許容範囲ともいえる。
さらに病院からストリートに出てみると困った人たちがうようよいた。
人は
お互いに助け合ってやっていこうじゃないか。
でも
そういう連中は日本よりも
しばしば大きな声を出さないと事が進まないのには
それに比べれば、日本では自分の職分を
日本に住んでいたら当たり前の事かもしれない。
でも、オレは奇跡だと思う。
だから店員や窓口担当者にも出来るだけ
もちろん患者や職場の同僚に対しても。
これからも日本がまともな社会であり続けることを願うばかりだ。
(「イジメられる男」シリーズ 完)
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