第561話 気持ち良く目覚める男

 オレは患者に処方する薬を自分でも試すことがある。

 今回のんでみたのはARB(アンギオテンシン受容体拮抗薬:血管収縮作用を有するアンギオテンシンIIの働きを抑制し血圧を下げる)と利尿薬(ネプリライシン阻害薬:ナトリウム利尿ペプチドを分解するネプリライシンを阻害して利尿を図り、体内水分量を減らして血圧を下げる)を配合した画期的な降圧薬……らしい、製薬会社によれば。


 どのくらい効くのか、何か副作用はないのか。

 自分でのんでみるのが1番分かる。

 それで、オレは今までの降圧薬をやめ、初期投与量の半分で「画期的」降圧薬を飲み始めた。


 確かに今までのんだどの薬よりもよく効く。

 もともと高かったオレの血圧があっさり正常化した。


 が、トイレに行く回数が半端はんぱない。

 夜に寝てから起きるまで4回はトイレに起きる。

 1時間半とか2時間おきだ。


 それに口が常時カラカラだ。

 だからトイレに起きるたびに氷を口に入れる。

 そればかりか昼間でも絶えず冷たいお茶を飲まないと気がすまない。


 最初は今年の夏の酷暑のせいかと思っていた。

 が、強迫的に氷やらガリガリ君を食べている自分に気づいてふと思った。

 これ、異常じゃね?


 おそらくは新しい降圧薬の影響なのだろう。

 体全体から水分を絞り出すから口が渇いてしまうに違いない。


 というわけで彼の画期的降圧薬をやめて普通のARBに変えてみた。

 果たしてその効能やいかに?


 まず、効果だ。

 血圧はやや上がった。

 が、140/90の絶対防衛ラインには達していない。

 辛うじて許容範囲内といえる。


 次に副作用。

 夜にトイレに行かなくなった。

 起きるにしてもせいぜい1回くらいだ。

 そして口が渇いていつも氷を食べるという習慣もなくなった。


 トイレに起きないからぐっすり眠ることができる。

 朝起きたときの熟眠感は格別だ。

 体中に英気が満ち満ちている。


 やはり人間、眠ってこそだと思う。


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