診察室のトホホホホ

第211話 エネルギーに満ち溢れた男

「結婚は判断力の欠如（けつじょ）、離婚は忍耐力の欠如、再婚は記憶力の欠如」

　フランスの劇作家、アルマン・サラクルーのお言葉なのだそうだ。

　順に考察してみよう。

「結婚する奴は判断力が欠如している」

　惚（ほ）れた腫（は）れたで結婚してから、その後に現実に直面してしまった。

　判断が正しくなかったという意味でこれは正しいのかもしれない。

「離婚する奴は忍耐力が欠如している」

　結婚生活に色々な支障があることが分かった。

　だからといってすぐに別れるのは、改善する努力や忍耐が足りていない。

　そう言われればその通りだ。

「再婚する奴は記憶力が欠如している」

　先の結婚生活の苦難を憶（おぼ）えていれば、またすぐに結婚しようなんて思わないはずだ。

　おそらくはそう言いたいのだろう。

　そんな話を脳外科のレジデントとしていたら、思わぬ質問が来た。

「じゃあ、未婚の場合は何が欠如しているのですか」

　そんな事、考えたこともない。

「な、何かなあ」

「独身の僕には行動力が足りないのでしょうか？」

　そんな事、真面目に訊（き）くなよ。

　オレに言わせるなら、足りていないのは勢いとか思いつきとか冒険心とか。

　そんなもんじゃないかな。

　でも、それを〇〇力（りょく）という形で表現するのは難しい。

　敢えて名前をつけるなら、探求力とか瞬発力とか決断力とか。

　そんなところだろうか。

　どれもあまりしっくり来ないけど。

　幸いオレ自身は無難に結婚生活を送っているが、同僚を見渡すとバツ1、バツ2は珍しくない。

　再々婚した先生も何人か知っている。

　こういった忍耐力も記憶力も全く足りていない人達に共通することがある。

　皆さん、例外なくエネルギーに満（み）ち溢（あふ）れていることだ。