第206話 卓袱台返しをくらわす女

業界用語で「カリフォルニア娘」というのがある。

「突然、カリフォルニア娘が現れて卓袱台返ちゃぶだいがえしをくらった」などと使う。


たとえばこうだ。


もう頭も体も弱ってしまった高齢男性が入院した。

年老いた奥さんが1人で介護するのは到底無理。

だから介護施設に行くしかない。

「スタッフが優しくて家から近いところを探してみましょうね」と話しがまとまりかける。


そこに登場するのがカリフォルニア娘。


「父を介護施設に入れるなんて可哀そう。家に連れて帰るから、頭も体も元の通りにちゃんと治してちょうだい!」


そういう無茶を言って話をぶち壊す。

介護は母親に押し付けて、自分が父親の世話をする気は毛頭ない。


なんでカリフォルニアなのか?


それはこの言葉が生まれたのがアメリカだからだ。

おそらく東海岸の医療関係者たちを困らせたのがカリフォルニア娘なのだろう。

だから西海岸の病院関係者を困らせるニューヨーク娘という言葉もある。

なぜか日本ではもっぱらカリフォルニア娘という言葉の方が愛用されている。


これに似た言葉として「内地ないちの長男」というのがあるそうだ。


一般の人たちにはあまり知られていないが、沖縄ではアメリカン・スタイルの先進的な臨床研修が行われている。

だから腕を磨きたいと野心をもった医学生たちは初期研修を沖縄で行うことが珍しくない。

しかし、沖縄には独特の文化があり、戸惑ってしまうことも多いそうだ。

それが「内地の長男」という言葉に集約されている。


年老いた親の行方ゆくえをどうするか。

それを決めるのは遠く内地に住んでいる長男なのだそうだ。

長い間、献身的に自宅で介護してきた奥さんやお嫁さんには発言権が全くない。


なので卓袱台返しは内地の長男にくらわされる。


実質的に母親と娘のラインで何でも決めてしまう都会とはずいぶん違う。


話を進めるときはキーマンを見極みきわめることが大切だ。

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