第645話 壺の好きな男 2
(「第640話 壺の好きな男 1」からの続き)
これまでのあらすじ:
第640話では、パーキンソン病疑いで紹介されてきた80歳前後の男性患者の話をした。
すでにこれまでの医療機関でダットスキャンを含む色々な画像診断をされてきた。
一緒についてきた奥さんの方が、診察室の椅子に座るなり「先生、画像はどうなっていますか」と尋ねてきた。
が、パーキンソン疑いなら、まずは症状の確認が先だ。
でも、高齢者ってのは思い込みが激しいので医学的な話が通じない。
それがオレの苦悩の始まりだった。
*****
まずは「パーキンソン」という病気について読者に
こいつは本来の「パーキンソン病」と、内服薬の副作用による「
パーキンソン病というのは、脳内のドーパミンという物質が減って歩行障害や手の震えなど、日常動作に支障を来す病気だ。
治療としては、ドーパミンの
一方、薬剤の副作用によるパーキンソン症候群というのもある。
脳内のドーパミンは十分にあるのだが、別の目的で服用している薬剤がそれをブロックしてしまうのだ。
ドーパミンが働かないというメカニズムは同じなので症状も同じだ。
この場合の治療は、ドーパミンをブロックしている薬剤を中止するのみ。
それだけで治ってしまう。
だから「パーキンソン」というのは、本来の「パーキンソン病」と「薬剤性パーキンソン症候群」の両方を含んでいるものの、治療は全く違っている。
さて、このパーキンソン病の画像診断として画期的なのがダットスキャンだ。
これは脳内のドーパミン神経を
パーキンソン病の場合はドーパミン神経が減っているので、誰が見ても一目瞭然、
だから光っていればパーキンソン病、光っていなければパーキンソン病ではない。
それはそれで正しい。
しかし、先に述べたように本来のパーキンソン病のほかに薬剤性パーキンソン症候群というものがあり、全く同じ症状でありながらダットスキャンでは光ってしまう。
というのもドーパミン神経は生きているのに服用している薬剤がこれをブロックしているだけだからだ。
まとめると。
ダットスキャンで光っていなければパーキンソン病。
ダットスキャンで光っていればパーキンソン病ではない。
が、薬剤性パーキンソニズムかもしれないという疑惑が残る。
だからパーキンソン病みたいな歩行障害がある場合、そのような副作用を
通常、高齢者は複数の医療機関から処方された10種類以上の薬を服用している。
だから、これを
でも誰かがやる必要がある。
本来ならそれらの薬を処方している医者が確認すべきだ。
あるいは、処方する時に副作用にも思いを
が、これまでに誰もチェックした形跡がない。
単にダットスキャンを見て「光っていますからパーキンソン病ではありませんね」で済ませているのだ。
全くどいつもこいつも!
手抜きなのか、
で……仕方ないからオレがチェックしましたよ。
お薬手帳を見ると4ヶ所ほどの医療機関から似たような処方がされている。
患者によれば、あるクリニックで治らなかったら次のクリニックにかかっているとのこと。
人には
しかも、どの薬をのんで、どれをのんでいないのか、さっぱり分からない。
果たして処方薬の中にパーキンソン症候群を起こすような薬が入っているのかいないのか、それを確認する地味な作業をしないと次に進めない。
が、患者夫婦はこの作業の重要性を理解できていないみたいだ。
オレがお薬手帳相手に格闘しているのを退屈そうな顔で
でも自分の
確認作業を終えたオレは、御夫婦に当事者意識を持ってもらうために
患者夫婦にとっては何十年ぶりの試験だと思うが、学生気分で答えてもらっては困る。
第1に命がかかっている。
第2に合格するまで許してもらえない。
オレは患者にも自分と同じだけの真剣さを要求する。
幸い今日はこの患者が最後だ。
時間はたっぷりあるので、とことん
(次回に続く)
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