第231話 サプリメントを愛用する女

その会社の会長さんはいつもおきの女性とやってくる。

車椅子を押してもらい、酸素を吸入しながら。


会長さんは80代の女性だが会社経営をしているだけあって頭はしっかりしている。


「会長はサプリメントばかりのんでいて、それだけでお腹いっぱいになってしまうんです」


お付きの女性は、そうこぼす。


「サプリメントって、通信販売か何かですか?」

「そうなんですよ」

「あれって、結構高いんじゃないですか」

「ええ、月に何万円もかかるんです」


会長さんはテレビや新聞を見ていると、ついサプリメントが欲しくなって電話してしまうそうだ。


「1種類で何万円もするのだったら、何種類ものむと大変な事になってしまうでしょう」

「お金もかかるし、会長の家にはサプリメントの箱が一杯積んであるんです!」


高齢者によくある話だ。


「じゃあ新しいのを注文するたびに、古い方から1つずつ解約したらどうですか?」

「それが、会長は全部覚えているんです。1種類でも足りなかったらすぐに分かってしまうので」

「困りましたねえ」


どうして皆さん、医療費が高いという割に、その何倍もお金をサプリメントに使ってしまうのか。

言っちゃ悪いけど、一種の霊感商法だな、これは。

オレオレ詐欺じゃなくてモシモシ詐欺だ。


そういえば、とある一世いっせい風靡ふうびしたサプリメントで続けて重大な副作用が出たことがあった。

知り合いの病院で起こった話だ。

だから注意喚起も兼ねて記者会見をした。


とたんに電話が鳴りやまなくなったそうだ。


「おまえとこが変な記者会見するから返品の山やないか。どないしてくれんねん!」


東京本社と名乗りながら、なぜか関西弁で怒鳴られたらしい。

似た名前のサプリメントまで電話してきてもう滅茶苦茶。


でも、いつの間にかそのサプリメントの名前は聞かなくなった。

世の中から駆逐くちくされたのかと思いきや、ネットで調べるとまだ売っているみたいだ。


見習うべきはその生命力かもしれない。


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