第475話 大惨事を招いた男 2

いわゆる「大惨事だいさんじ」については418話でも述べた。

外で昼食を摂っているときに「大」の方を漏らしてしまった、というものだ。


今回、新たに「大惨事」の話を仕入れたので聞いて欲しい。

前回とは別の患者からだ。

これはカクヨムのネタになるぞ、と思ったので根掘り葉掘り聴いた。


その患者は70歳くらいの男性だ。

年齢のせいか、夜中に1回や2回はトイレに起きる。

悲劇はそのうちの1回で起こった。


その1週間ばかり私用が重なって無茶苦茶疲れていたらしい。

で、23時頃に床にいたんだけど午前3時頃に目が覚めた。

トイレにいっておしっこをして布団に戻ろうとしたときのこと。

何か太腿の内側が濡れているような気がしたそうだ。

その濡れているものは足首まで伝っていた。


太腿の内側が濡れたと思った時には、まさか便とは思わなかったそうだ。

パジャマの中に手を入れて確認した時に指に茶色いものがついた。

それで事実を突きつけられてしまった。


その患者、もともと下痢をしやすい体質らしい。

だから、健康上の事はあまり心配していない。


が、便というものはあちこちに着いてしまう、そいつが問題だ。

なので汚染された下着、パジャマ、スリッパなどはビニールの袋に密閉した。

スリッパと下着は捨てるしかない。

でも、パジャマは買ったばかりの高価なものなので、洗ってまた使うことにしたそうだ。

たぶん洗う前に消毒が必要だと思うけど。


また、患者自身の体も綺麗きれいにして汚れをおとさなくてはならない。

トイレットペーパーでけるだけ拭いて、その後はシャワーを浴びた。

でも、自分の人生でこんなに情けないことはなかったそうだ。


さらによく見ると床にも茶色いものが落ちていたので、それもアルコールティッシュで拭き取ったとのこと。

惨劇については、ほぼ無かったことにできたはずだ。

でも、たぶんかすかな便臭べんしゅうはしているはず。

それに、いくら手を洗っても取れた気がしない。


ということで、朝、奥さんが起きてきた時に一連の出来事を告白した。


意外にも、そんなに驚かれなかった。

なんと、何年か前にも同じような事をやらかしていたのだ。

「またか」という表情でその事をげられてようやく思い出した。

そして別の意味で愕然がくぜんとしたのだとか。


「先生、年は取りたくないもんですな」


同意を求められて思わずうなずいた。

果たして自分がどんな恐ろしい年の取り方をするのか。

それを想像するのは困難だ。


でも、いつも怒っている頑固なジジイにだけはなるまい。

漏らしながらもフレンドリーな年寄りの方が、まだマシだ。



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