第678話 婚活する男 2

(前回からの続き)


 結婚相談所に登録したレジデントのスペックだけど……


 外見は芸能人で言えば KinKi Kids の向かって右側、堂本光一に似ている。

 実際のところ、レジデントの見た目は本物と比べても遜色そんしょくない。

 だから彼の事は堂本くんと呼んでおこう。


 堂本くんの年齢は30歳前後、年収は1000万円と1500万円の間のどこかだと思う。

 勤務医の年収ってのは人によってバラつきが大きいので適当な推測だ。


 地方の出身で、都会の国立大学医学部を卒業している。

 長男か次男かは知らない。

 オレが知っているのは、彼の脳神経外のうげか科レジデント時代は週80時間、ひょっとしたら100時間は働いていたということくらいだ。

 淡々と仕事をしていたので悲壮感はまったくなかった。


 誰が見ても優良物件の堂本くんが何でまた結婚相談所なのか。


「僕はちょっと、自分から行くのは苦手なんで……」


 ということでプロフィールを登録したそうだ。

 すると女性側からの申し込みが殺到して数百件!

 正確な数字は憶えていないけど、もしかすると1,000件を超えていたかもしれないとか。


「相手のプロフィールを1件ずつ見るのも疲れてしまいまして」


 で、最初の100件から適当にピックアップしてお見合い。

 仮交際、真剣交際と進んで2ヶ月で目出度めでたく婚約退会と相成あいなったのだとか。


 ちょ、ちょっと待ってくれ!


 三股さんまたかけていたのがバレて修羅場になったとか。

 50代の女に粘着されたとか。

 そういう楽しい話は無いわけ?


 適当にピックアップして2ヶ月で婚約とかって……

 もっとヤル気を出してくれないかな、堂本くん。

 彼は男女交際にエネルギーを注がないタイプかもしれない。


「それにしても恋愛市場で敗北して結婚相談所に登録する人が多いけど、ホントは逆だよな」

「そうなんですよ!」


 それまでまらなそうにしゃべっていた堂本くんの表情が初めて明るくなった。


「若いうちに結婚相談所で婚活して、万一うまくいかなかったら一発逆転をねらって恋愛市場に打って出るのがいいと思うね」

「僕もそう思います」


 なんせ恋愛市場ならなんでもアリだ。

 年の差婚だろうが、出来できちゃった婚だろうが。


 そういや別の脳神経外科レジデントはこっちのパターンだ。

 当時付き合っていた彼女が「ゴメンなさい。私、滅多に生理が来ないから子供は諦めてね」と言うので何の防御もせずに親密交際をしていたら授かってしまった。

 結婚後の今では3人の息子が家の中で暴れ回っているそうだ。



 話を堂本くんに戻す。


「先生、結婚相談所に詳しいですね。婚活しているんですか?」


 オレは堂本くんに虚をつかれた。


「いやいや。外来で患者さんに訊かれるからアドバイスしてあげようと思って。先生の事例は参考になるからさ」

「なりますかね」

「いつも YouTube で婚活の話を聴いて参考にしているんだけど、基本的に女の立場での相談ばかりだろ」

「ああ、僕も YouTube で勉強しました」


 なるほど、彼にとっては婚活も勉強……みたいだ。


「でも、4つか5つ聴いたら後は全部同じパターンのアドバイスだろ」

「そうですね」

「だから男の立場での実体験ってのは貴重なわけよ」

「僕の経験でよかったら役立ててください」


 昭和の頃はお見合いという制度が日本中に行き渡っていた。

 おそらく世の中の結婚の半分以上はお見合い婚だったんじゃないかと思う。

 今になって考えれば、そんなに悪いシステムじゃなかった。


 ネット時代の今、むしろ効率的なマッチングが可能になり、かつてのお見合い制度がパワーアップして帰ってきたわけだ。


 自分が積極的でないと思う人は、若いうちから結婚相談所を活用するのもいいんじゃないかな。


(「婚活する男」シリーズ 完)


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