第278話 専門用語が通じる男
「そうすると、いわゆる『
「そうでんねん。刑務所には何回も行ったんで、『懲役太郎』と呼ばれても仕方おまへん」
通じた、裏社会の専門用語が!
脳外科外来での出来事。
懲役太郎というのは有名な
顔を出していないので、正確には
しかし、「懲役太郎」は固有名詞ではない。
何回も懲役に行く人間の事をあちらの業界では懲役太郎と呼ぶ。
刑務所を出たり入ったりする人の事だ。
だから10回も刑務所に行ったら立派に懲役太郎を名乗る資格がある。
この人は20回近く刑務所に行ったので、もう自他ともに認める「懲役太郎」だ。
「
「俗に
「うまい事いいますねえ」
「京都は
「やっぱり刑務所ってのは
「それは気候とか人間関係によりまんなあ」
「冬は寒すぎるとか?」
「山科は冬は寒いし夏は暑いしで、どうにもなりまへん」
「盆地ですからねえ」
「堺は気候もええし、担当さんも知っている人ばっかりで、『
この人の話を聞いていると、なにが幸せかが良くわからなくなってくる。
「懲役も1回とか2回やったら勉強にもなるし、規則正しい生活が身についてええんですけど、3回以上行くとこ違いますわ」
なるほど。
でも、全く行かないのが1番だと思うんだけど。
「ところで覚醒剤はもう使ってないですよね」
「長いことやってません」
「もし人生をやり直すとしたら何をしたかったですか」
「そうでんなあ、ちゃんとした商売をやりたかったですなあ」
「テキヤとかですか」
「いやいや、食材ですわ。親が八百屋やったんで」
なんでも両親は手広く商売をしていたそうだ。
「自分もお客さんに物を売るのが得意で、また好きやったんです」
覚醒剤に手を出したばっかりに人生を棒にふった、と言うべきか。
とは言え、今からでも「明るく楽しく前向きに」を期待したい。
「でも80歳でこれだけしっかりしていたら言うことありませんよ。引き続き生活習慣に気を付けて、物忘れについてはメモを活用して対処してください。
そう明るく励ました。
「よかった、よかった」
そう言いながら
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