第573話 鮮度を大切にする男

 以前、オレはこんな事を夢想していた。


 豪邸の中の静まり返った書斎でワープロを打つ。

 周囲からは何の雑音も聞こえてこず、邪魔が入らない。

 だからどんどん筆が進む。

 こういう事が実現したら作家にとっては天国みたいな環境だ。


 しか~し。


 天国ってのは本当は退屈なのではなかろうか。

 そして眠い所じゃないかな。

 実際に行った経験が無いので分からないけど。


 だから天国で執筆作業をしようとしてもはかどらないと思う。

 退屈だし眠いし。

 小説を書くための駆動力が全くなさそうだ。


 天国に比べて医療機関はどうだろうか。

 病院で働いていると何しろ忙しい。

 俗世間での1週間分の色々な事が医療現場では1日で起こる。

 それにつられて泣いたり笑ったり怒ったり。


 これらの感情の起伏が駆動力になって、いくらでも筆が進む。

 もちろん時間があれば、の話だけど。


 次々に事件が発生するからネタには困らない。


 問題はこれらのネタを文章にする時間とエネルギーをどう確保するか、だ。

 その場で書かないと鮮度が落ちてしまう。


 スマホに録音するとか、タイトルだけメモ帳に書いておくとか、オレなりに工夫してみたが、どれもなかなかうまくいかなかった。

 結局、いくら時間がなくてもその場で書いてしまうのが1番。

 同じ単語が重複していようが、文末表現が繰り返されようが、とにかく最後まで書いてしまう。

 いよいよカクヨムにアップする直前になってから、推敲するのがよさそうだ。


 ともあれ、執筆のための駆動力をもらうと考えれば、阿鼻叫喚の職場に出勤するのも悪くないような気がする。

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