#7 『ボックス席』

 僅か7~8人程度で満員となってしまう狭いスナックでの出来事。

 店の奥のボックス席で何か奇妙なものを見ると、従業員や客の間からそんな苦情が出た。オーナーはそんなバカなと笑ったが、心当たりはあった。内装工事の際、中古で買った大きな鏡数枚を、店内の内壁に使っていた。そして問題の店の奥のボックス席は、その店の構造上、一部分だけ合わせ鏡になってしまっているのだ。

 内装業者からもこれはやめた方がいいとは言われていたが、オーナーは面白半分でそのまま作ってしまった。

 深夜の三時。従業員達も帰り、店内はオーナーただ一人。やはり鏡は外すかとボックス席へと向かう。長椅子に腰掛けると、左右に向かい合った自分自身が無限に続いている。

 これはこれで面白い筈なんだけどなぁと、溜め息を吐いて席を立つ。

 朝になったら内装業者を呼ぼうと決意しもう一度振り返ってみれば、真正面の鏡に、裸体のまま首を吊る女性の姿が映った。

 どうやら問題は合わせ鏡の方ではなく、中古で買ったと言う部分が大きいらしい。

 もしかしたら事故のあったラブホテルかどこかの内装だったのだろう。鏡に映った風景は、いかにもそんな感じの場所だったからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る