#118 『ベッドの上に誰かが寝ている』
生まれて初めての不眠症が続き、知り合いの伝手で有名な霊能者さんを紹介してもらった。
私より十歳ほど年上だろうか、それは三十前後ほどの若い女性の先生だった。だが確かに物凄い方のようで、私が何も話していないのに、白い紙の上にどんどん私の家の見取り図を書き込んで行く。それはまるで今まさにその場所を見て記しているようだった。
やがて私の部屋の番となった。窓も机も、棚に置かれたぬいぐるみの位置までもが正確に書き込まれて行く。そしてベッドの位置になった際、何故かそのベッドの上には人の形までもが書き込まれた。
「これは……?」聞けば先生は、「誰かが寝てるわ」と、私に告げた。
先生は片手で顔を覆い、「言いにくいんだけど、このベッドには片思いの男性が“憑いている”」と、話す。なんでも、絶対に叶わない想いだと理解していながらも、諦められない気持ちをこの場所に感じると言うのだ。
一瞬で私は理解した。不眠症の原因は間違いなくそのベッドだったからだ。そこで寝ていると何者かの気配を感じて眠れなくなる日々が続いたせいだった。
帰り際、先生からお札(おふだ)を頂いた。その札をベッドの下に敷いておけば次第に良くなるとそう教えられた。私は家に帰ると同時にベッドへと近付けば、そこに微かな異臭を感じた。近付いて更に良く嗅げば、間違いなく私のものではない別の匂いがそこに混じっていた。
一瞬で背筋が粟立った。先生が「誰かが寝ている」と言ったのは、きっと現実的な意味での事だったのだと気が付く。同時に私はこの匂いに反応し、眠れなくなったのだと悟った。
犯人は一瞬で分かった。私はすぐに友人達に連絡し、泊まる場所を確保した。
数週間後にはアパートを見付け、そこに引っ越しをした。部屋の荷物はほぼ運び入れたのだが、隣の部屋で引きこもっている兄の体臭が染みついたベッドだけは、底にお札を貼り付けたまま実家へと置いて来た。
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