#117 『公民館』

 今は無き、地方の片隅の過疎った村での出来事である。

 村の中心に、公民館があった。ある夕方、学校帰りに私がその前を通り掛かると、公民館の窓越しに大勢の人影が中に見えた。

 何をしているのかは分からない。ただその人々の見つめる中心に、かがり火が焚かれているのだけはしっかりと確認出来た。

 子供の頭でも、館の中で焚き火は駄目だろうと言うのは理解出来たので、家へと帰ってすぐにその事を告げると、公民館の館長をしていた祖父は「今日は何の予定も入っておらんぞ」と、憤慨して家を出て行った。興味を持った私も後を付いて行ったが、館の中には誰の姿も無い。だがついさっきまで人がいただろう気配と、かがり火が焚かれていただろう炭と灰の痕跡は見付かった。

 それ以降、時折、「公民館をどこかの団体が勝手に使っている」と言う報告がいくつか入る。だが、駆けつけると既に誰もいない。そんな事ばかりが続いた。

 ある日、「俺が見張りするわ」と、マタギ(熊専門の猟師)を営むHさんが名乗りを上げた。シーズンオフだしちょうどいい暇つぶしだと言って、公民館の管理室に住み始めた。もちろん愛用の猟銃も持ち込んでの事だ。

 結局、Hさんがそこに住み始めて以来、何も起こる事がなかった。当の本人のHさんは、「つまんねぇなぁ」と笑うのだが、そんな事はないだろうと私は思った。先日、公民館の前を通り掛かった際に、私は見てしまったのだ。またしても大勢の人がかがり火を取り囲み、何やら不穏な集会をひらいている。その一番後ろ側に、Hさんの姿もあったからだ。

 それからすぐに公民館は封鎖されたが、それから数年ほどで、その村は廃村となった。

 今でも思い出す、故郷の村での出来事である。

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