#445 『怪談大会』

 これもまた、“ゆーろ”さんの、大学時代のエピソードである。

 夜遅く、机に向かって課題に取り組んでいた時の事。

 背後――つまりは部屋の中央側だ。そこを何者かが、「てけてけてけてけ――」と、小さな歩幅で歩いている音がしたのである。

 嫌だなぁ、振り向いて何かがいたら最悪だし、いなかったらいなかったで背後が気になって仕方なくなるじゃない。思いながらそっと振り向けば、期待を裏切らずそれはいた。

 人形である。しかも綺麗な赤い振り袖を身に纏った、日本人形なのである。

「ぎゃあ!」と悲鳴を上げた途端、電話が鳴り出した。

 出るとそれは案の定、親友のM美で、「皆で盛り上がってるんだけど、今から来ない?」と、ろれつの回らない口調で言う。

 もう終電は終わってるし、深夜に呼び出す非常識さはどうなのと、言いたい事は山ほどあったのだが、私が目下の所で確認したかったのは、「今あんたら、怖い話とかしてるでしょう?」と言う質問だった。

 するとM美は、「やっぱ何か出た?」と笑い、皆で怪談大会をしながら、ちょうど私の噂をしていた所だったと言う。

「迷惑だからやめて。ついでに日本人形の話もすぐやめて」

 言うとM美は更に笑う。どうやら図星だった様子だ。

 全く邪魔ばかりするんだからと、珈琲を淹れて気を取り直し、再び課題に向かおうとした時だった。

 部屋のドアの前に、うつむき顔で正座をする少年がいた。

「ぎゃあ!」と悲鳴を上げて、私はM美に電話をする。

「ねぇ、子供の話もやめて」言うとM美は、電話口の向こうで楽しそうに笑っていた。

 ――ゆーろさんの体験談はまだ残り三話あるので、また折りを見付け掲載したいと思う。

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