#446 『シェアハウス』
『シェアハウス。家賃、光熱費込みで二万二千円』
そんな不動産広告を見て、僕は内見もせずに飛び付いた。
金に困っていたのである。同時に、目下の悩みが住居である。もはやそこが幽霊屋敷であっても構わないとさえ思っていた。
契約を済ませ、向かった先は想像以上に古く、そして広かった。
玄関にはそれなりの数の靴がひしめき合っていた。案内してくれた方は大家の息子さんらしく、「今は男性四人がここに住んでいます」と教えてくれた。
僕に割り当てられた部屋は、一階の奥にある和室だった。
部屋を仕切るのは襖なので、当然鍵は掛からない。だがどうせ盗まれるものもないだろうと、黙ってそこに住む事にした。
初日の夜。住人の誰とも会わないまま、就寝となった。
寝てしばらくすると、すぅと襖の開く音がする。見れば確かに、少しばかり開いている。
顔を覗かせ廊下を見るが、誰の姿も無い。そしてまた横になって目を瞑るが、少しすると再び、すぅと音がして襖が開く。そしてその晩は、そんな事が数度起こった。
数日もすれば流石に同居人とも遭遇するもので、全員と挨拶を交わし、この家でのルールを教わった。
ただ一つ気になったのが、“独身かつ、独りで住む事”と言う項目。これは既に、他の同居人によって破られている。なにしろ夜な夜な襖を開けに来るのは幼い女の子で、一体誰の子供なのか、時折家のあちらこちらでその姿を見掛けるのだ。
だが、新参者がそんな事を指摘する訳にも行かず、夜の悪戯も目を瞑ると言う事にして我慢していた。
しかし、ある日の事。家へと帰れば同居人の全員が一階の居間で集合していて、僕にもその集まりに出てくれと言うのである。
内容は、僕の吊し上げだった。「独りで住む事と決まっているのに、子供を連れて来るとは何事だ」と言う、訳の分からない理屈で全員に苦言をされたのだ。
いやいや、僕は一人だ。確かに子供の姿は見掛けるが、それはあなた方の誰かではないのかと返せば、誰もが顔を見合わせて「違う」と言う。
結局、僕の部屋の荷物を見せて、全員から納得をしてもらった。なにしろ荷物は布団と鞄と歯ブラシ程度なのだ。子供の存在どころか、その片鱗も無いのである。
「でも、あんたがここに来てから、あの男の子を見掛けるようになったんだよな」
聞いてびっくりした。僕が見ているのとは違う子なのである。
大家にその話をすると、その翌日には部屋にドアと鍵が付いた。
僕は今もそこに住んでいる。
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