#444 『憑依体質』

 以前、#428以降三夜続けてご紹介させていただいた、“ゆーろ”さんの体験談その二を、二夜連続でお贈りしたいと思う。

 ――大学時代に、とても懐っこい後輩が出来た。名前はエリカ。かなり際どいメイクと服装の、パンク系女子である。

 ある日の事、「週末暇なんスよ」とエリカに話を持ち掛けられ、勢いで私の家で飲み会の約束をしてしまった。もちろん、泊まり前提の飲みである。

 さて、エリカが家に来たはいいが、「まず最初に」と、大真面目な顔で独白を始めるのである。

「ウチねぇ、マジで憑依体質なんス」

 聞いていきなり、以前に親友のM美から、「あんた取り憑かれ体質だから気を付けな」と言われた事を思い出す。なるほど、この子と気が合うのはそう言う繋がりかと一人納得をした。

 但し、エリカの場合は私とは違い、憑依しに来るのは常に“一人”で、少々気位の高い、レズっ気のある女子の魂なのだと言う。

 さて――その憑依は夜遅くなってからやって来た。

 しばらくは他愛もない話で盛り上がっていたのだが、突然、私とエリカの間にある空間から、スネアドラムでも叩いたかのような乾いた高い音が、「パーン!」と弾けて聞こえた。

 瞬間、エリカの顔が変わった。表情が変わった訳ではない、顔の造形そのものが変わったのだ。

 こればかりはどう説明したら良いのか分からない。確かに目の前にいるのはエリカ本人ではあるのだが、ただとにかく、エリカとは全く別人であるとしか言いようがない。エリカはまさに“憑依”されたかのように、全く別の人格で私の方へと近付いて来ると、私を無理矢理に押し倒して、犬のように顔を舐め始めたのだ。

 そして、エリカにキスをされた瞬間、“何か”が私の口の中に飛び込んで来た。

 それは固体でもなければ液体でもない、なんとも言えない、例えがたい代物だった。

 それがエリカの口内から私の口内へと移り、ずるりと食道を通って行くと、そこで私の記憶は途絶えた。後はなんだかとても断片的にエリカを叱っている場面や、エリカがさめざめと泣いている場面が幾度か繰り返され、微かな記憶として残っているだけ。気が付けばもう朝で、エリカの姿は既に無かった。

 あれから学校で何度かエリカとは遭遇したのだが、露骨に避けられ、とても寂しい思いをした。

 その事をM美に話せば、「あんたの方が棲みやすいからって、移動されちゃったんじゃない?」と、訳の分からない事と言われた。

 それから時々、家の中で例のドラムの音が聞こえる事があった。

 そしてその度に、私の記憶がしばらくの間、あやふやになるのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る