#183 『マネキンの家』

 僕の高校時代の話。地元の町の某所に、“マネキンの家”と呼ばれる廃墟があった。

 僕自身も何度かその家を探索した事があるのだが、どうしてそこがマネキンの家と呼ばれているのかが全く理解出来ない。なにしろ、家中くまなく探し回ってみても、マネキンどころか人形の一体も見付からない、そんな廃墟なのだ。

 ある日、とある先輩が、「マネキン見付けた」と吹聴していると言う噂が耳に入って来た。僕らは興味本位でその先輩にマネキンの場所を聞きに行ったのだが、先輩は「教えない」の一点張りだった。

 だが粘り強く聞いてみた所、「普通の探し方じゃあ見付からない」と話してくれた。同時に、「見付からない方がマシ」とも言っていた。

 それを聞いた僕らはもう一度その廃墟へと足を運ぶも、やはりマネキンはどこにも無い。しかしその晩、友人の一人から電話が来て、「俺、場所分かったかも」と言う。

「どこだよ?」と僕は聞くも、友人もまた教えてはくれない。ただ、「見付けたら話す」とだけ言って電話を切られた。

 友人は翌日、学校には来なかった。だが、電話には出た。友人はかなり疲弊したような声で、「マネキン見付けた」とだけ、僕に言った。

 約束通り場所は教えてくれた。二階の西側、書斎のような本棚ばかりの部屋がそうだと言う。

 いや、そこは何度も見たと僕が言うと、「夜に行かないと分からない」と、友人。結局僕はその件を他の友人達にも話し、その晩、再びマネキンの家へと乗り込む事にした。

 だがやはり、書斎の部屋にマネキンは無かった。「騙されたな」と他の友人達は悔しがったが、どうにも僕には「夜に行かないと」と言う台詞が気に掛かって仕方がなかった。

 ふと、窓ガラスに反射した懐中電灯の明かりの中に、何かを見たような気がした。僕はそこでもしかしてと思い、全員に窓ガラスとは反対側。つまりは背後を照らしてくれと頼んだ。

 そうして窓の方を向けば、確かにそこにはマネキンがあった。光が反射し、室内の様子が窓に映し出されているのだが、そこには僕ら以外の人影が映り込み、同じように窓の方を睨んでいるのだ。

 先輩や友人の言った事は本当だった。ただ一つだけ間違っていた情報は、それはどう見てもマネキンや人形の類いではなかったと言う事だ。

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