#184 『青い山脈』

 夜更け、二階の窓を開けっぱなしにして作業をしていると、ふいに外から砂利を踏む足音と鼻歌が聞こえて来る事がある。

 若い女の子らしい。聞いているとこっちがくすぐったくなってしまうような、そんな細くて可愛らしい歌声なのだ。

 覗いて見た事こそ無いが、窓の下の路地を歩いて抜けて行ってるのだろう。曲はふいに始まり、ふいに終わる。なんと言う曲なのかまでは知らないが、今までに聞いた事の無い不思議な曲調の歌なのである。

 ただ思うのは、別にこんな建物の隙間を縫うように作られた細く暗い道を、夜遅くにわざわざ歩かなくてもいいのにと言う事。ただ、地味な仕事を朝方までしている僕にとっては、とてもありがたい刺激ではあるのだが。

 ある日の事、仕事で使うBGM探しに中古のCDショップへと出向いた際、驚く事に僕が知りたがっていた例の曲が店内で流れていたのだ。

 僕は慌ててカウンターへと向かう。そしてその曲名を聞いた所、年配の男性店員がそれを教えてくれた。後で僕はその曲名を検索し調べてみたのだが、なんとその曲は1949年の頃の流行歌で、確かに聞いた事が無いであろうほどに古いものだった。

 僕はアパートを出て、路地の入り口の前に立つ。路地は狭いながらも舗装されており、どんなに頑張っても、毎夜聞くような砂利を踏む足音にはなりそうになかった。

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