#182 『豆腐の家』
近所に“豆腐の家”と呼ばれる、誰も住んでいない廃墟がある。いや、厳密に言うと廃墟かどうかは分からない。なにしろその家、出入り口と言うものが一切無く、中に入れない、見る事が出来ない以上、“誰も住んでいない”とは断定出来ないのである。
問題の家は山へと向かう中腹辺りにある。県道に沿ってかなりの距離を登り、とある地点の分かれ道を左に折れた先に、それが建っているのだ。
家は、真っ白な外壁で出来ていた。見た感じ、幅も奥行きも同じぐらいで、高さもおおよそ同等。つまりは真っ白な四角柱。要するに、“豆腐”に似ているので付いた名前なのだろう。
家には、全くどこにも入り口が無かった。誰が建てたのか? 建てた目的は何なのか? まるで分からない辺りが奇妙だった。
当時まだ中学生だった僕らは、興味半分でどうしてもその中を見ようと躍起になった。とりあえず上から攻めようと、友人二人が近くの木に登って様子を伺った所、「何も無い」と言う声が上から降って来たのだ。
何も無いとはどう言う事だと聞き返せば、木の上の二人は声を揃えて、「屋根が無い」と言う。しかも屋根が無いから内部も丸見えで、中もまた白い壁と床だけが覗ける程度だったらしい。
突然、木の上の二人が慌てて降りて来た。どうしたと聞けば、「人がいた」と答える。
そんなまさかと僕らは笑ったが、友人二人は至って真面目で、「中から俺らを見てた」と、真剣な顔で言うのだ。
それから七年ほどが経ち、夏休みに実家へと帰省した際に昔の友人達と合流し、なんとなく昔話をしたついでで、“豆腐の家”の話題が持ち上がった。
「今、中に入れるようになってるらしいぜ」と、地元に居残った友人が言う。そこで当時つるんでいた連中とで、再び豆腐に家を見に行く事になった。
かなり汚くはなっていたが、まだその家はそこにあった。しかも噂通りに壁の一部が破壊され、そこから中に侵入可能となっていた。
内部はとんでもなく荒れていた。床が抜けてそこから草木が生え出し、ほとんどジャングルのようになっていた。だが僕らが驚いたのは、そんな荒れ果てた中に、テーブルや椅子、ソファー、年代物のテレビや食器棚、台所のシンクにパイプベッドなどが置かれていた事だった。
明らかに昔とは違うと、木に登った二人はそう語る。少なくとも家具類は一切無かった筈だと言う。
「この辺りに人が立っていたんだ」と、友人。そして僕らがその辺りまで移動すると、一人の友人が「おかしなものがある」と言い出す。指摘した箇所を見れば、それはマンホールの蓋。普通はこんなものが家の内側にあるはずが無いと言う。
友人の一人がそれをいぶかしんで、懸命にこじ開けると、そこにはぽっかりと地下に向かう空間とハシゴが現れた。もちろんその中を探索しに行こうと言う者は誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます